インドでは専門のヨーガ指導者(Instructor and Teacher)を育成するためのヨーガ教育能力検定制度が2015年から開始されています。こちらではまだあまり知られていないインド政府Ayush省管轄下にあるヨーガ教育能力検定試験について解説していきたいと思います。
インド政府Ayush省傘下のヨーガ教育能力検定試験の始まり
2015年の開始当初この検定制度はインド品質評議会/Quality of Council(QCI)が担当をしていましたが、2018年からはヨーガとしての専門性に特化したヨーガ教育委員会/Yoga Certification Board(YCB)にその担当が移行し、現在は一般的にYCB試験(YCB Examination)と呼ばれています。これはヨーガを職業として指導する場合に必要な基礎知識および能力を検定する試験です。※Yoga Certification Boardの訳は意訳となっています。
この資格は医師や看護師のような業務独占資格ではありませんが、日本における名称独占資格に相当します。資格がなくてもヨーガ指導に従事することができますが、インドでは特に公的な資格として広く認知されています。
このYCB試験はインドの各種ヨーガ・トレーニングコースに組み合わされ、ヨーガ指導者を目指す人は、トレーニングコース修了時の機関独自の修了試験に加え、このYCB試験を受験することになります。例えば私はカイヴァリヤダーマ・ヨーガ・ヨーガ研究所のDiploma in Yoga Education(D.Y.Ed2017-2018)を履修しましたが、2018年にKdhamの修了試験を受けるとともに、現在のYCB試験に相当する、当時のQCI試験も受験しています。
ヨーガ教育能力検定試験 (YCB試験)を受験するメリット
ヨーガ教育能力検定試験を受験するメリットは以下の通りです (IYA PrCBパンフレット参照)
- 第三者による認定:YCB試験は第三者によって実施されるため、客観的かつ公平な評価が行われます。
- 国の認定機関としての認証:認定機関自体が国の認定機関認証委員会(NABCB)の認証を受けています。
- インド政府Ayush省の監視:YCB試験はインド政府Ayush省の監視下にあります。
- 世界的な認知:YCB試験は世界的に認知されています。
- オンライン試験:YCB試験がオンラインで受験できることは、受験者にとって便利で柔軟性のある選択肢となります。
- 公開されたウェブサイトに登録:YCB/IYAのウェブサイトに認定ヨーガ指導者として登録されることで、ヨーガ指導者としてのキャリアを発展されることができます。
これらのメリットにより、ヨーガ教育委員会による検定試験は、ヨーガ指導者の資格取得において信頼性と国際的な認知を持つ重要な制度となっています。現在WHO/世界保健機関とインド政府Ayush省、および国立ヨーガ研究所/MDNIYの協働でヨーガのガイドライン『Consumer Information on Proper Use of Yoga』pdf. がリリースされていますが、この枠組みにも対応しています。
ヨーガ教育能力検定試験 (YCB試験)の3つのカテゴリー
現在このYCB試験の検定制度は、以下に示す3つのカテゴリーに分類されています。さらに各カテゴリーの中に幾つかの種類があります。
- ヨーガ教育トレーニング部門(5種類)
- ヨーガ・セラピー部門(3種類)
- 学校教育におけるヨーガ教育トレーニング部門(2種類)
最も一般的なのはヨーガ教育トレーニング部門ですが、このように一般的なヨーガ資格に加え、ヨーガ・セラピーに特化したもの、教育現場でのヨーガ指導に特化した資格が選択できるようになっています。ここから各分類について解説していきたいと思います。
ヨーガ教育トレーニング部門の5種類
ヨーガ教育トレーニング部門の5種類について見ていきたいと思います。
一般的なヨーガ教育トレーニング部門にある5種類
- ヨーガ・ボランティア/Yoga Volunteer(YV)
- ヨーガ・プロトコール・インストラクター/Yoga Protocol Instructor(YPI) :Level1
- ヨーガ・ウェルネス・インストラクター/Yoga Wellness Instructor(YWI) :Level2
- ヨーガ・ティーチャー&エヴァリュエーター/ Yoga Teacher and Evaluator(YT&E) :Level3
- ヨーガ・マスター/Yoga Master(YM) :Level4
試験運営の便宜上、試験のないヨーガ・ボランティア(YV)を除いた、ヨーガ・プロトコール・インストラクター(YPI)から順番にLevel1, Level2, Level3, Level4と呼ぶ場合もあります(2023.9現在)
ヨーガ教育トレーニング部門の各種類の応募要項
ここから各種類の応募要項についてYoga Certification Board(YCB)公式ホームページ(英語)に掲載されているシラバスに沿って見ていきたいと思います。(公式ホームページは英語なので、ここでは日本語に翻訳しています)
1.ヨーガ・ボランティア/Yoga Volunteer(YV)
応募条件:どなたでも応募が可能です。対応するトレーニング・プログラムへ参加できます。
年齢制限:75歳未満の方
指導能力(受講時間):36時間相当のトレーニング・プログラムへの参加が必要です。
活動内容:ヨーガ・ボランティアは、自分自身と社会全体のウェルビーイングを向上させる目的を持って活動します。グループクラスのサポートや、公園で開催されるヨーガ・クラス、国際ヨーガの日(IDY)関連のプログラムでのイベントのサポートを行います。Fit India Movement/FIMへの参加も可能であり、職場でヨーガ・ブレイク・プロトコールクラスを指導することもできます。
2. ヨーガ・プロトコール・インストラクター/Yoga Protocol Instructor(YPI) :Level1
応募条件:
団体応募:公認の教育機関またはそれに準ずる教育機関で中学校教育修了証書を取得している者(インドの第10学年に相当)。ただし、ヨーガ教育機関は独自の応募資格を設定している場合があります。
一般公募:特定の条件はありません。このレベルに対応するCYPに準じたヨーガの知識とスキルがある指導者は、PrCBを通して検定試験を受験できます。
年齢制限:なし
トレーニング要件:200時間以上の対応するコースの修了が目安となります。パートタイムの場合は3ヶ月以上、フルタイムの場合は1ヶ月以上のコースに参加して履修する必要があります。
役割と活動内容:ヨーガ・プロトコール・インストラクターは、Ayush省が「国際ヨーガの日」に向けて作成したヨーガ指導の基準をまとめたマニュアルであるヨーガ・プロトコール/CYP(Common Yoga Protocol)を指導する役割を担います。疾患予防や健康増進を目的として公園や公共施設などでヨーガ実習やクラスを実施することができます。
知っていましたか?
6月21日の「国際ヨーガの日」には、インドではスクールや流派に関わらずCYP/Common Yoga Protocolを実習することで、一体となって国際ヨーガの日を祝賀します。
3.ヨーガ・ウェルネス・インストラクター/Yoga Wellness Instructor(YWI) :Level2
応募条件:
団体応募:公認の教育機関またはそれに準ずる教育機関で、日本の高等教育修了証書を取得している者が望ましい。(インドの第12学年に相当) ただし、同等の資格を保持していることも条件となる場合があります。ただし、ヨーガ教育機関は独自の応募資格を設定している場合があります。
一般公募:特定の条件はありません。このレベルに対応するヨーガの知識とスキルがある指導者は、PrCBを通して検定試験を受験できます。
年齢制限:なし
トレーニング要件:400時間以上の対応するコースの修了が目安となります。パートタイムの場合は6ヶ月以上、フルタイムの場合は3ヶ月以上のコースに参加して履修する必要があります。(ヨーガのインストラクターコース/サーティフィケーションコースに相当します)
役割と活動内容:ヨーガ・ウェルネス・インストラクターは、学校、ヨーガスタジオ、職場、ヨーガウェルネスセンター、プライマリーヘルスケアセンターなどで、疾患予防や健康増進を目的としたヨーガを指導する役割を担います。
4.ヨーガ・ティーチャー& エヴァリュエーター/Yoga Teacher & Evaluator(YT&E) :Level3
応募条件:
団体応募:公的な大学で学部を修了している者、またはそれに準ずる教育機関で同等の資格を保持していることが望ましい。ただし、ヨーガ教育機関は独自の応募資格を設定している場合があります。
一般公募:特定の条件はありません。
年齢制限:なし
トレーニング要件:800時間以上の対応するコースの修了が目安となります。パートタイムの場合は15ヶ月以上、フルタイムの場合は9ヶ月以上のコースに参加して修了する必要があります。(ヨーガのディプロマコースに相当します)
役割と活動内容:ヨーガ教育機関、ヨーガ・トレーニングコースやトレーニングプログラムにおける主任教育/技術指導者として活躍できます。またヨーガ指導者のエヴァリュエーター/評価者/査定者の役割を担います。スタジオ、教育機関、カレッジ、大学、各種高等教育機関で指導を実施することができる。
5.ヨーガ・マスター/Yoga Master(YM) :Level4
応募条件:
団体応募:公的な大学において学部を修了している者、またはそれに準ずる教育機関で同等の資格を保持していることが望ましい。ただし、ヨーガ教育機関は独自の応募資格を設定している場合があります。
一般公募:特定の条件はありません。
年齢制限:なし
トレーニング要件:1600時間以上の対応するコースの修了が目安となります。(これは大学院修士課程2年分に相当します)
役割と活動内容:ヨーガ教育プログラムの主任教育/技術指導者として活動し、熟練した指導者として、あらゆるレベルの指導、評価、査定者の役割を担います。また全体の管理責任者としての役割を担います。
ヨーガ・セラピー部門の3種類
ここからは、ヨーガ・セラピー部門の3種類について見ていきたいと思います。
ヨーガ・セラピー部門にある3種類
6.アシスタント・ヨーガ・セラピスト/Assistant Yoga Therapist(AYTh) :Level5
7.ヨーガ・セラピスト/Yoga Therapist(YTh) :Level6
8. セラピューティック・ヨーガ・コンサルタント/Therapeutic Yoga Consultant(ThYC) :Level7
※現在このカテゴリーで試験が主に開催されているのは、level5とLevel6になります。(2023年9月現在)
6.アシスタント・ヨーガ・セラピスト/Assistant Yoga Therapist(AYTh) :Level5
応募条件:
団体応募:高校卒業
一般公募:特定の条件はありません。
年齢制限:なし
トレーニング要件:400時間以上の対応するコースの修了が目安となります。(解剖生理学について100時間以上の対面授業を含む)
活動内容:医師または認定ヨーガ・セラピスト&ヨーガ・コンサルタントの指導の下、特定の疾患に関する指導ができる。
7.ヨーガ・セラピスト/Yoga Therapist(YTh) :Level6
応募条件:
団体応募:いずれかの大学の学部修了者
一般公募:特定の条件はありません。
年齢制限:なし
トレーニング要件:800時間以上の対応するコースの修了が目安となります。(解剖生理学について100時間以上の対面授業を含む)
活動内容:医師または認定セラピューティック・ヨーガ・コンサルタントと共に、あらゆる疾患に対するヨーガ療法を行うことができる。
8. セラピューティック・ヨーガ・コンサルタント/Therapeutic Yoga Consultant(ThYC) :Level7
応募条件:
医療従事者またはヨーガの修士号取得者(ヨーガ指導者は医療知識が必要であり、医療従事者はヨーガの知識が必要である)
トレーニング要件:
医療従事者またはヨーガの修士号取得者(ヨーガ指導者は医療知識が必要であり、医療従事者はヨーガの知識が必要である)
年齢制限:なし
活動内容:医療施設において、または独自のセンターにて疾病治療のためのヨーガ指導を実施できる。ヨーガ・セラピストとして認定された医療従事者である必要があります。
学校教育におけるヨーガ教育トレーニング部門の2種類
学校教育におけるヨーガ教育トレーニング部門の2種類
初等教育におけるヨーガ教育とトレーニング/Primary/Elementary School Yoga Teachers
中等教育におけるヨーガ教育とトレーニング/Secondary/Elementary School Yoga Teachers
この部門は今後紹介していければと思います。
ヨーガ教育能力検定試験/YCB試験の日本人向け受験方法
1. 日本のYCB試験運営団体(PrCB):一般社団法人全日本ヨガ連盟-The Yoga Organization of Japan(JPYC)
現在日本でYCB試験を運営している機関として一般社団法人全日本ヨガ連盟-The Yoga Organization of Japan(JPYC)という団体があります。こちらは対面での試験となります。
現在レベル1のヨーガ・プトロコール・インストラクター/Yoga Protocol Instructor(YPI)の試験に対応されています。筆記試験はインド大使館にて実施されています。また実技試験はインド大使館近くの会場にて実施されています。(2023年9月現在)
2. インドの老舗PrCB: インドヨーガ協会/IYA PrCBを通じた日本語対応オンライン試験
インドヨーガ協会(IYA)PrCBは、ヨーガ指導者のレベル1 ヨーガ・プロトコール・インストラクター(YPI)、レベル2 ヨーガ・ウェルネス・インストラクター(YWI)、レベル3 ヨーガティーチャー&エヴァリュエーター(YT&E)の認定を行う機関として、QCI(Quality Council of India)の承認を受け、2016年6月23日にPrCBとして認証されました。
現在はさらにヨーガ教育トレーニング部門の一番上のレベル4 ヨーガ・マスター(YM)や、ヨーガ・セラピー分野のレベル5 アシスタント・ヨーガ・セラピスト(AYTh)、レベル6ヨーガ・セラピスト(AYTh)の試験に対応したオンライン試験を実施しています。(2023.9月現在)
現在IYA PrCBを通じた日本語対応のオンライン試験を準備中です。レベル2ヨーガ・ウェルネス・インストラクター(YWI)試験を2024年上旬に予定しています。
またインドヨーガ協会PrCB日本語版パンフレットも提供が可能です。
ご興味のある方は、下記お問い合わせよりご連絡ください。
3. インド国内のPrCBに申し込みをしてオンラインで受験する
YCB公式ホームページのYCB試験開催の一覧表から、ご自身にあう日時やPrCBを選択し申し込みを行うことも可能です。しかしインドと直接やり取りすることが必要になりますので、英語が堪能で、インドの方とのやりとりに慣れている方、またインドで対応するヨーガコースを履修されている方には可能な方法かと思います。私自身はインドプネー大学修士課程ヨーガ専攻を修了後に、同級生と共にYCBサイトで申し込みをしてYCB Yoga Masterの試験を受験しています。それでも振込金額や振込方法、試験当日の時間のやり取り、合格証の送付など大変な部分がありました。
4. インドで対応コース履修の修了時に団体応募で現地受験する
インド国内でIYA加盟機関/団体でYCB試験に対応するコースを履修した場合、コース修了時に団体応募でYCB試験を現地受験することができます。現在はオンラインでインド国内のIYA加盟機関/団体の提供するコースを履修する方法もあります。(短期間の現地研修が必須になっているコースもあります) 詳細は各種機関にお問い合わせください。
ヨーガ教育能力検定試験/YCB試験の試験範囲について
YCB試験のシラバスについてはYCB公式ホームページ(英語)で各レベルのPDF(英語版)のダウンロードが可能です。またこちらで日本語に翻訳した以下のPDF資料の提供はこちらの。
- ヨーガ・プロトコール・インストラクター (YPI) :Level1
- ヨーガ・ウェルネス・インストラクター(YWI) :Level2
- ヨーガ・ティーチャー& エヴァリュエーター(YT&E) :Level3
ご希望の方は、下記お問い合わせよりご連絡ください。
ヨーガ教育能力検定試験/YCB試験の流れ
ヨーガ教育能力検定試験/YCB試験は、理論と実技の2つのセクションで構成されています。
試験に合格するためには、各セクションで70%以上の点数を取る必要があります。
誤答に対する減点はありません。
理論セクション
理論セクションでは、4択の選択問題が出題されます。このセクションでは、ヨーガに関する理論的な知識を問われます。レベルにより異なるので、シラバスを参照。
実技セクション
実技試験では、以下の基準で評価されます。
デモンストレーション・スキル:自分自身がヨーガのポーズや技法を実演するスキルが評価されます。ヨーガの原則に準じ、伝統文献および対応するテキストに準じた、かつ安全な実演が求められます。
指導スキル:生徒に対してヨーガ指導を行う能力が評価されます。伝統文献およびサイエンスに基づいた的確な指導が求められます。
評価スキル:ヨーガ指導者や生徒を評価し、適切なフィードバックを提供する能力が評価されます。
応用知識:ヨーガの応用に関する知識が問われます。
指導経験:ヨーガの指導経験が問われます。過去の修了証や指導歴についてのインタビューがあります。
これらの評価基準をクリアし、理論の実技の両方で70%以上の点数を獲得することで、各レベルにおける検定試験に合格となります。試験合格者はインドAyush省YCBにより認定されヨーガ指導者として活動することができます。
YCBシラバス対応のインドヨーガ協会/IYA加盟機関の推奨されるコースや試験対策についてはまた別に紹介していきたいと思います。
ヨーガ教育能力検定試験/YCB試験についての動画はこちら
コメント
[…] インストラクターから学べるようになります。(※参考「YCB試験について」 https://kisoyoga.com/indian-yoga-association/)日本でも「ヨーガとは何なのか?」が、受け手 (生徒/お客) だけではなく […]
[…] 参考「インド政府Ayush省傘下のヨーガ教育委員会(YCB)によるヨーガ教育能力検定試験について」https://kisoyoga.com/yoga-certification-board-iyaprcb/ (竹内想子さん/インドAyush省YCB認定Yoga Masterのブログより) […]