インドのIYA全国大会YOGAUTSAV2026に参加して

インドでヨーガの博士課程

はじめに

みなさん、お久しぶりです。ここヴィシャーカパトナムは真夏を過ぎ、梅雨が到来しています。昨年よりかなり1ヶ月ほど梅雨が遅かったように思いますが、雨のおかげで少し暑さが和らぎほっとしています。
本稿ではインド・ヨーガ協会(IYA)主催の第6回全国大会「YOGAUTSAV 2026」について実際に参加して、現地で見て感じたこと、そして印象に残ったポイントを中心にレポートしていきたいと思います。

IYA YOGAUTSAV 2026とは

インドヨーガ協会(IYA)では年に数回インド各地で全国大会(National Conclave)が開催されています。その第6回目が5月29日・30日の2日間、マハーラーシュトラ州ロナヴァラのKaivalyadhama Yoga Institute(Kdham)で開催されました。私は自身の研究のフィールドワークで2週間Kdhamへ滞在しており、その後半がこの大会にあたりました。

大会の概要

今回のテーマは「多様性の称揚(Celebrating Diversity in Yoga)」です。インド各地から、ヨーガ指導者や研究者、政策担当者、教育者、ウェルネス分野の指導者、さらには若者代表まで、本当にいろいろな立場の人たちが一堂に集まりました。参加者も全国から集結し、私が現在所属するアーンドラ大学からも助教授やPhD研究生が駆けつけてくれました。


開幕式では、Ayush省(インドの伝統医療・ヨーガを管轄する省庁)を代表してプラタップラーオ・ジャダウ大臣が登壇し、「ヨーガは調和・集合的幸福・人類の統一のための強力な力である」と祝辞を述べていました。こうした政府の積極的な関わりからも、今のインドではヨーガが単なる伝統文化というより、国の健康政策や文化外交、ひいては国際的なソフトパワー戦略の一部として位置づけられていることがよく分かります。


会場のKaivalyadhamaは、1924年創設という世界でも有数の歴史を持つヨーガ研究機関。ヨーガの科学的研究を長年牽引してきた場所で大会が開かれたこと自体、「伝統と革新の交差点」を象徴しているように感じました。

多様な流派が一堂に集結ーー生きた伝統を体験する

今回いちばん印象的だったのが、「Traditions in Practice」というセッションです。Krishnamacharya Yoga Mandiram、S-VYASA University、The Yoga Institute、Art of Living、Bharatiya Yog Sansthan、Mokshayatan、Preksha Internationalなど、それぞれ異なる哲学や実践スタイルを持つヨーガ機関が、アーサナ、プラーナーヤーマ、チャンティング、チャクラ瞑想、ヨーガ・ニドラー、治療的ヨーガ、マインドフルネスといった、それぞれの得意な実践を紹介してくださいました。


参加者は普段なかなか触れる機会のない流派の実習にも参加でき、あちこちで活発な交流が生まれていたのも印象的でした。異なる伝統が同じ方向を向いて「共存」していることを体感できる――そんな貴重な場だったと思います。

Krishnamacharya Yoga Mandiram
International Center of Yoga Education & Research
Preksha International
Bharatiya Yog Sansthan
Kaivalyadhama Yoga Institute

多様性の中に流れる「ひとつの哲学」

「Unity in Diversity―ヨーガの哲学的基盤」というパネルでは、IYA会長ハンサージ・ヨーゲンドラ氏、S-VYASA代表H・R・ナーゲンドラ氏、KYM代表S・スリーダラン氏といったインド・ヨーガ界を代表する方々が登壇し、多様なヨーガ伝統をつなぐ「共通の哲学的基盤」について議論が交わされました。
パタンジャリの『ヨーガ・スートラ』が説く「チッタ・ヴリッティ・ニローダ(心の作用の止滅)」、あるいはヴェーダーンタ哲学の「個我(アートマン)と宇宙原理(ブラフマン)の合一」――流派や技法は違っても、多くの伝統がこうした共通の方向を向いている。アーサナ重視の系譜でも、瞑想や治療的応用を重視する系譜でも、最終的には「心の静寂」と「自己への深い気づき」という同じ目的地を目指している、ということが共有されました。

会場ではIYAの新刊『Yoga: One Wisdom, Many Traditions』というコーヒーテーブルブックについても発表されました。タイトルがまさに物語っているように、今のインド・ヨーガ界は、多様な伝統をそれぞれ尊重しながらも、共通の理念のもとで再びつなぎ直そうとしている――そんな動きを感じました。一方で、随所にて、それぞれの伝統が長い歴史と独自の実践体系を持っている以上、それらをどう位置づけ、どう相互理解を深めていくのかは、簡単な話ではないなとも考えさせられました。

若い世代とテクノロジー、そして「職業化」

「今の世代へのヨーガ」をテーマにしたパネルには、IYAユース・アンバサダーの俳優ヴィドゥット・ジャムワール氏や、フィットネス指導者イーファ・シュロフ氏も登壇。「マインドフルネスを今の若者にどう届けるか」という実践的な議論が交わされました。ヨーガの裾野を広げるという意味では意義深い一方、伝統的な実践体系とどう接続していくのかという問いも残ります。


また「ヨーガの未来」というセッションでは、AI活用の学習ツールやハイブリッド型のヨーガ教育、姿勢分析機能付きのデジタルヨーガマットなど、新しいテクノロジーを使った実践方法も紹介されていました。技術革新がヨーガ教育そのものにも影響を及ぼし始めているんですね。とはいえ、ヨーガ本来の身体的な実践や師弟関係を基盤にした伝達のあり方と、こうした新しい技術をどう両立させていくのかは、これからもっと議論が深まっていくテーマだと感じます。

「多様性」と「標準化」――制度化はどこへ向かう?

今回の大会で特に気になったのは、「多様性を祝う」というテーマと並行して、「ヨーガ教育・資格認定・標準化」をテーマにしたセッションもしっかり設けられていたことです。教育基準の整備や認定枠組みの構築、グローバル展開を見据えた制度設計など、ヨーガを社会の中にどう位置づけていくかという議論が活発に行われていました。


「多様な伝統を尊重する」ことと、「共通の認定基準をつくる」こと――この二つの方向性をどう調和させるかは、今後のインドのヨーガ制度化を考える上で大きな論点になりそうです。これは単なる制度設計の問題というより、それぞれの伝統が持つ自律性と、国家や組織による制度的な管理との間で、どんなバランスを探っていくのかという、もっと大きな問いにもつながっていると思います。

おわりに

YOGAUTSAV 2026は、現代インドにおける「制度化と多様性」のダイナミクスを観察するうえで、本当に示唆に富むイベントでした。近年のインドでは、ヨーガが国家政策にどんどん組み込まれていく中で、「伝統を継承すること」と「国家的に制度化すること」が同時並行で進んでいます。
「多様性の称揚」が本当に意味のあるものになるためには何が必要なのか――この問いを胸に、これからもインドにおけるヨーガの変化を見つめていきたいと思います。

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