はじめに
みなさん、サワディカー/こんにちは。今回はWHOヨーガ・ガイドライン解説シリーズ第13弾となります。前回に引き続き「ヨーガに関する伝統的なテキスト」を扱います。またこの項は広範になりますので、数回に分けて解説しています。今回で4回目となりハタ・ヨーガのテキストの最後の部分となります。
第1章 概要
- 1.1 ヨーガ入門
- 1.2 ヨーガの定義
- 1.3 ヨーガの歴史と発展
- 1.4 ヨーガの特徴
- 1.5 伝統的なヨーガの流派/系統
- 1.6 ヨーガに関する伝統的なテキスト(4)
- 1.7 文化的影響
- 1.8 ヨーガの健康効果
- 1.9 ヨーガに関する誤解と事実
前回はD. 『シッダ・シッダーンタ・パッダティ』、E.『ハタ・ラトナーヴァリー』 、F. 『ゴーラクシャ・サンヒター』 の3つのテキストについて解説していきました。今回はG. 『シヴァ・サンヒター』、H. 『ヴァーシシュタ・サンヒター』の2つのテキストについてみていきたいと思います。今回でハタ・ヨーガのテキストは一旦終了となります。重要なテキストではありますが、ここではさらりと見ていければと思います。
ハタ・ヨーガ文献のB-Hの7種類を以下に紹介しておきます。
- B. ハタ・ヨーガ・プラディーピカー
- C. ゲーランダ・サンヒター
- D. シッダ・シッダーンタ・パッダティ
- E. ハタ・ラトナーヴァリー
- F. ゴーラクシャ・サンヒター
- G. シヴァ・サンヒター
- H. ヴァーシシュタ・サンヒター


G. シヴァ・サンヒター/S.S
ハタ・ヨーガに関する最も広範な著作は、『シヴァ・サンヒター』であると考えられている。そこにはパールヴァティー女神とシヴァ神の対話が描かれている。この本にはパタール(Patal)と題された章がある。ヨーガ・アーサナ、ムドラー、バンダ、プラーナーヤーマ、およびタントラの修行法が網羅されている。
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『シヴァ・サンヒター』は「シヴァの大要」を意味する重要なハタ・ヨーガの文献ですが、著者は不明とされています。シヴァ神とその妻パールヴァティの対話形式で描かれています。パタラと題された章があり、5章に分かれています。ただ他のテキストのような階梯にはなっていません。テキストの1章にはアドヴァイタ・ヴェーダーンタ哲学について、2章から5章にかけて多様なヨーガ技法が網羅されています。
パタールI:五大要素の起源、ジャニャーナ、アジュニャーナについての説明が含まれている。
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ジャニャーナ/知識、そしてアジュニャーナ/無知についての解説は『シヴァ・サンヒター』の特徴でもあります。
パタールⅡ:ブラフマンダ/Brahmandaとピンダ/Pindaとの対比が述べられている。人体には350,000本のナーディーがあり、そのうち15本が重要である。そのうちスシュムナー/Sushumnaが最も重要である。
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多くのハタ・ヨーガのテキストがナーディーの数を7,2000本とする中で、このテキストでは350,000本とされています。そのうち14本が重要で、さらにチトラーを加えた15本が紹介されています。
パタールⅢ:10種類のプラーナ/ウパ・プラーナについてプラーナーヤーマ(パヴァナ・アヴィヤーサ)の説明と共に述べられている。クンバカ・シッディ/Kumbhaka Siddhiとして、発汗、震え、物質的な欲望や執着からの解放/ブーミ・ティヤーガ(Bhumi tyaag)、浮遊/アーカーシャ・ガマン(Aakash gaman)の4つの兆候が挙げられている。
テキストに記載されている84のアーサナ(ポーズ)のうち、シッダ・アーサナ、パドマ・アーサナ、ウグラ・アーサナ(別名パシュチモーッタナ・アーサナ)そしてスヴァスティカ・アーサナの4つのみである。これらには詳細が記されており、最も重要なアーサナとして特定されている。
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10種類のプラーナとウパ・プラーナ(シヴァ・サンヒター)
プラーナ/主なプラーナ(5種)
- プラーナ:胸
- アパーナ:肛門
- サマーナ:臍周囲
- ウダーナ:喉
- ヴャーナ:全身
ウパ・プラーナ/副次的プラーナ(5種)
- ナーガ:ゲップ
- クールマ:沈み
- クルカラ:飢えや渇き
- デーヴァダッタ:あくび
- ダナンジャヤ:しゃっくり
シッダ・アーサナ、パドマ・アーサナ、ウグラ・アーサナ(別名パシュチモーッタナ・アーサナ)そしてスヴァスティカ・アーサナの4種類について詳細が記されており、最も重要なアーサナとして特定されている。
パタールⅣ:他の10のムドラーと共に、ヨーニ・ムドラーについて具体的に説明されている。
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10種類のムドラー(シヴァ・サンヒター)
- マハー・ムドラー
- マハー・バンダ
- マハー・ヴェーダ
- ケーチャリー
- ジャーランダラ・バンダ
- ムーラ・バンダ
- ヴィパリータ・カラニー
- ウッディヤーナ
- ヴァジローリー
- シャクティ・チャーラナ
パタールⅤ:一般的にマハー・ヨーガ(マントラ・ヨーガ、ハタ・ヨーガ、ラヤ・ヨーガ、ラージャ・ヨーガ)として知られるヨーガの4つの種類と、ヨーガ・アビャーサ(ヨーガの継続的な実習)における障害、4種類のヨーガ・サーダカ(ヨーガ実習者)について説明している。
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ここでもマハー・ヨーガの4種類についての説明がされている。またヨーガ実習における障害/ヴィグナについての説明、初心者、中級者、上級者、達人の4つのヨーガ実習者についての説明もされている。またこのテキストの特徴として、ヨーガ実習のために必ずしも出家する必要はなく、家庭を持っていてもヨーガの道を歩めることが描かれている。
H. ヴァーシシュタ・サンヒター/V.S
『ヴァーシシュタ・サンヒター』は、13世紀に書かれたヴァイシュナヴァ派のテキストで、座位以外のハタ・ヨーガのアーサナを解明した最も初期の著作のひとつとして重要な意味を持っている。聖者ヴァーシシュタは、救済への道として知識と行為を組み合わせたアプローチを提示している。『ヴァーシシュタ・サンヒター』は、ハタ・ヨーガの実践の発展と進化において、極めて重要な資料源である。
紀元前1150年頃にマハーリシ・ヴァーシシュタによって書かれたと考えられている(諸説あり)『ヴァーシシュタ・サンヒター』は、ハタ・ヨーガの実践を発展させる上で極めて重要な資料である。ジュニャーナ・ヨーガとカルマ・ヨーガの教えを包括する重要なテキストである。
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『ヴァーシシュタ・サンヒター』も、ヴァイシュナ派に属する、ハタ・ヨーガの重要なテキストです。著者は不明、13世紀に書かれたと言われますが、この時期に座位以外のハタ・ヨーガのアーサナを記載した最も初期の文献として重要な意味を持っています。また特徴として知識/ジュニャーナと行為/カルマの両方を組み合わせることが重要だと説いています。
全部で8つの章と535句のシュローカで構成され「ヨーガ・キャーナ/YogKhyana」として知られる最初の4章と、「ジュニャーナ・キャーナ/Jnanakhyan」として知られる最後の4章に分かれている。
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『ヴァーシシュタ・サンヒター』の章の数は諸説ありますが、一般的には8章とされています。
- 1章〜4章 「ヨーガ・キャーナ/YogKhyana」
- 5章〜8章「ジュニャーナ・キャーナ/Jnanakhyan」
特筆すべきは、アシュターンガ・ヨーガの詳細な記述であり、10のヤマと10のニヤマ(倫理的原則/規範)、10種類のアーサナ(身体的ポーズ)、プラーナーヤーマ(呼吸法)、4種類のプラティヤーハーラ(感覚の制御)、5種類のダーラナー(集中法)、2種類のディヤーナ(瞑想法)、サマーディ(超越状態)など、さまざまな要素を含むアシュターンガ・ヨーガについて詳しく説明している。
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『ヴァーシシュタ・サンヒター』にはアシュターンガ・ヨーガ/8階梯のヨーガが記載されています。各階梯もパタンジャリの提唱するものと同じですが、その内容は異なります。ヤマ・ニヤマは各10種類が挙げられており、座位以外を含む10種類のアーサナ、ナーディーショーダナ・プラーナーヤーマを含んだプラーナーヤーマ(呼吸法)、4種類のプラティヤーハーラ(感覚の制御)、五大元素と関連づけた5種類のダーラナー(集中法)、2種類のディヤーナ(瞑想法)、サマーディ(超越状態)について解説されています。
また、身体、ナーディー、ヴァーユ、マルマ・スターナについての詳細な記述や、ナーディの浄化とナーディシュッディの兆候も紹介されている。
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インド的身体観、主要な14種類のナーディー、18種類のマルマ・スターナ(集中するためのポイント)などの詳細な記載、ナーディーの浄化やナーディ・シュッディによる兆候なども詳細に描かれています。
ヨーガの知識は、ヨーガの8つの肢則から構成されている。ジーヴァの4つの状態、五層の宇宙構造、吉祥の兆候と、不吉の兆候についても掘り下げている。最後に、カーラ(死)に打ち勝つ方法が論じられている。
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このテキストには実習/修行/カルマ的な部分だけでなく、哲学/知識/ジュニャーナ的な部分も論じられています。双方の組み合わせによりヨーガのゴールを目指していきます。
おわりに
今回扱ったG. 『シヴァ・サンヒター』、H. 『ヴァーシシュタ・サンヒター』は、個人的にはハタ・ヨーガの身体観について調べる際に、辞書的に使用するのに非常に有益なテキストだと感じています。今回はさらりと触れて行きましたが、また折に触れて深掘りしていければと思います。さて、今回でハタ・ヨーガのテキスト全てをカバーしました。さて次回からは伝統文献の最後の部分であるI. バガヴァッド・ギーター、J. ウパニシャッド、K. ヨーガ・ウパニシャッド、L. ブラフマ・スートラをカバーしていこうと思います。