第12回. WHO-CC ヨーガ・ガイドライン 1.6 ヨーガに関する伝統的なテキスト(3)

WHO-CC ヨーガ・ガイドライン

はじめに

みなさん、サワディカー/こんにちは。今回はWHOヨーガ・ガイドライン解説シリーズ第12弾となります。前回に引き続き「ヨーガに関する伝統的なテキスト」を扱います。またこの項は広範になりますので、数回に分けて解説しています。今回はこちらの項の3回目となります。

第1章 概要

  • 1.1 ヨーガ入門
  • 1.2 ヨーガの定義
  • 1.3 ヨーガの歴史と発展
  • 1.4 ヨーガの特徴
  • 1.5 伝統的なヨーガの流派/系統
  • 1.6 ヨーガに関する伝統的なテキスト(3)
  • 1.7 文化的影響
  • 1.8 ヨーガの健康効果
  • 1.9 ヨーガに関する誤解と事実

全体の目次は第1回に載っていますので、こちらからご参照ください。

前回は最も重要なハタ・ヨーガ文献としてB. 『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』とC.『 ゲーランダ・サンヒター』の解説をしていきました。そして続きの今回はD. 『シッダ・シッダーンタ・パッダティ』、E.『ハタ・ラトナーヴァリー』 、F. 『ゴーラクシャ・サンヒター』 の3つのテキストについてみていきたいと思います。ちなみにハタ・ヨーガ文献はB-Hの7種類が紹介されています。

  • B. ハタ・ヨーガ・プラディーピカー
  • C. ゲーランダ・サンヒター
  • D. シッダ・シッダーンタ・パッダティ
  • E. ハタ・ラトナーヴァリー
  • F. ゴーラクシャ・サンヒター
  • G. シヴァ・サンヒター
  • H. ヴァーシシュタ・サンヒター

D. シッダ・シッダーンタ・パッダティ/ S.S.P

『シッダ・シッダーンタ・パッダティ』は、ハタ・ヨーガに関するサンスクリット語の重要なテキストである。ナータ・サンプラダーヤ(宗派)の有力な創始者であるヨーギン・ゴーラクシャナータによって著された。テキストはウパデーシャと呼ばれる6つの章に分かれている。

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ナータ派の創始者と言われるヨーギン・ゴーラクシャ・ナータによって書かれたとされる『シッダ・シッダーンタ・パッダティ』は、ハタ・ヨーガの世界観/哲学的側面を詳細に記載した非常に重要なテキストとみなされています。ゴーラクシャ・ナータが著者であると言われる文献は、他にも『ゴーラクシャ・サンヒター/パッダティ』『ヨーガ・マールタンダ』『ゴーラクシャ・シャタカ』『アマラウガ・プラボーダ』などがあります。

『シッダ・シッダーンタ・パッダティ』は6章で構成されており、各章の概要が紹介されています。

S.S.P 第1章:ピンダ・ウトパッティ

第一章:ピンダ・ウトパッティ/Pindotapatti (身体の起源)では、ピンダの起源について述べられている。ピンダは卵/身体を意味し、それは大宇宙の卵/身体であり、またピンダは小宇宙の卵/身体、すなわち人間である。この章では、人体の粗大な側面と微細な側面を扱っている。

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『シッダ・シッダーンタ・パッダティ』の1章には非顕在的な絶対的精神のコンセプトが語られます。これをヨーギン・ゴーラクシャナータは「アナーマー/名前のない者」と呼んでいます。そしてこの「アナーマー」の意志により「ニジャー・シャクティ」が生じ、パラー・シャクティ、アパラー・シャクティ、スークシュマ・シャクティ、クンダリニー・シャクティと展開することが世界全体の創造の基礎となっていると語ります。

ちなみにこのテキストは重要である一方で難解であることからインドでもディプロマコースでは名前だけで、M.Aコース(2年の修士課程)にて全体の概要を学びました。なのでヨーガの入門ではタイトルを知っておく程度で十分かと思います。ここではWHOのガイド・ラインに順番に沿っているので紹介しています。

S.S.P 第2章:ピンダ・ヴィチャーラ

第二章:ピンダ・ヴィチャーラ/Pinda Vichara(身体についての考察)では、9つのチャクラ、16の集中のポイント、3つの主要な瞑想の中心、5つの空間、そしてアシュターンガ・ヨーガについて論じている。

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この章では人間の身体の考察が語られます。人間の身体といっても解剖生理学に出てくるような内容ではなく、より微細なインド的身体観について語られます。ここでは一般的なシャット・チャクラ(6種類のチャクラとサハスラーラ)だけでなく、9種類のチャクラについて語られます。また16箇所のアーダーラ、3種類のラクシャと呼ばれる瞑想における集中のポイント、5種類のビョーマ・パンチャカと呼ばれる空間など人間の身体の微細な側面について説明がされています。またさらにアシュターンガ・ヨーガについての記述もありますが、パタンジャリの提唱するものとは異なる点もみられます。

S.S.P 第3章:ピンダ・サンヴィッティ

第三章:ピンダ・サンヴィッティ/Pinda Samvitti(身体についての知識)では、小宇宙/ミクロコスモスと大宇宙/マクロコスモスの同一性について論じている。つまり、外界に存在するものはすべて、人間の身体にも存在するということを説明している。

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身体についての正しい知識として、外界に存在するものはすべて、人間の身体にも微細な形で存在するということを説明しています。

S.S.P 第4章:ピンダ・アーダーラ

第四章:ピンダ・アーダーラ/Pinda Dhara(身体の基礎)では、ピンダを支持し、またその基礎であるシャクティについて扱っている。シャクティには2種類ある: 顕在化したシャクティであるクーラと、顕在化していないシャクティであるアクーラです、アクーラはクーラ・シャクティの原因です。クーラとアクーラの結合はサマラサタ(完全な同化)と呼ばれる。

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この章ではピンダである身体を支持する基盤であるシャクティについて説明されています。クーラは顕在化したシャクティで、アクーラは顕在化していないシャクティです。顕在化したシャクティであるクーラはさらに展開し、それぞれの段階で異なる名前が付けられています。

S.S.P 第5章:ピンダ・パダヨー・サマラサタ

第五章:ピンダ・パダヨー・サマラサタ/Pinda Padayoh Samarasata(ピンダと至高の実在との同化)では、主に完全な同化(サマラサタ)を達成する上でのグルの重要性を扱っている。

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サマラサタと呼ばれる平衡状態へは、知的な理解では達することができず、ヨーガの実習によってのみ経験できるとされています。その為にはグルの存在が必要であり、その重要性について語られています。

S.S.P 第6章:アヴァドゥータ・ヨーギー・ラクシャナ

第六章:アヴァドゥータ・ヨーギー・ラクシャナ/Avadhuta Yogilakshana(アヴァドゥータ・ヨーギーの性質)では、ピンダを完全に理解したシッダ・ヨーギーであり、全てから自由であるアヴァドゥータの重要性と特徴について述べています。

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アヴァドゥータ・ヨーギーとは、心を制御化におき、外的なものから引き離し、絶対的なものとの一体化する者のことを指します。本来の自己に気付くことの重要性、性質、そして特徴について描かれています。

S.S.P 補足

『シッダ・シッダーンタ・パッダティ』は難解なテキストとして有名です。F. に出てくる『ゴーラクシャ・サンヒター』もゴーラクシャ・ナータにより書かれたとされていますが、『シッダ・シッダーンタ・パッダティ』がハタ・ヨーガの世界観/哲学部分を提示し、『ゴーラクシャ・サンヒター』などはその実践部分を提示していると言われています。

ちなみにYCB試験ではヨーガ・プロトコール・インストラクター/Level1やヨーガ・ウェルネス・インストラクター/Level2では問われることはありません。

E. ハタ・ラトナーヴァリー/H.R

シュリー・ニヴァーサは、17世紀にハタ・ヨーガの理論書である『ハタ・ラトナーヴァリー』を著した。ハタ・ヨーガにはアーサナ、プラーナーヤーマ、ムドラーが役立つと書かれている。『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』が8つの浄化のうち6つ(シャット・カルマ)しか詳述していないことを批判している。4つの章で構成されている。

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『ハタ・ラトナーヴァリー』は「ハタの宝石」という意味を持ちます。17世紀頃にシュリー・ニヴァーサ・バッタによって著されたとされています。『ハタ・ラトナーヴァリー』のシュローカ全体の約3割が『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』の引用であることもこの文献の特徴となります。このように多くを引用しながらも、浄化技法は8種類、プラーナーヤーマは9種類など異なる点もあることが興味深い点でもあります。

H.R 第1章

第一章では、シュリー・ニヴァーサ自身の序論を述べた後、彼の著作である『ハタ・ラトナーヴァリー』の目的を明らかにする。

ヨーガの定義をいくつか示すとともに、マハー・ヨーガについて説明し、その下にマントラ・ヨーガ、ラヤ・ヨーガ、ラージャ・ヨーガ、ハタ・ヨーガについて論じている。

従来のシャット・カルマの代わりに、アシュタ・カルマとして知られる8つの浄化の手順を詳しく説明している。彼はチャクリ・カルマの実践を重要視し、ジャラー・バスティの実践中に行うよう推奨している。これらのカルマは、余分な脂肪や粘液を取り除くだけでなく、6つのチャクラを効果的に浄化し、プラーナーヤーマの基礎となり、あらゆる種類の病気を取り除き、解脱への旅のツールとなる健康な身体を促進する。

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この章は、アーディ・ナータへの敬意を表した後、シュリー・ニヴァーサが自身について語り、『ハタ・ラトナーヴァリー』の目的を明らかにする。そしてマハー・ヨーガと言われる4種類のヨーガ(マントラ・ヨーガ、ラヤ・ヨーガ、ラージャ・ヨーガ、ハタ・ヨーガ)についての記載があります。このことはこの文献の特徴でもあります。

また一般的に浄化法は6種類に分類されていますが、本書では「チャクリ・カルマ」と「ガジャ・カラニー」の2種類が加えられ8種類が述べられています。また各浄化法が特定のチャクラの浄化と関連付けれられています。

H.R 第2章

第二章では、9種類のクンバハカ、10種類のムドラーについて詳しく説明しています。ここでは一般的に知られる8種類のクンバカに加え、ブジャンガ・カラニーという名のクンバカを提唱している。ウッディヤーナの名前はバーヒャ・ウッディヤーナ/バーヒョーッディヤーナである。ヴァジローリ、ケーチャリー・ムドラーについてかなりの詳細が述べられている。

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ここでも一般的な8種類のプラーナーヤーマ(アシュタ・クンバカ)に、ブジャンガ・カラニー(ブジャンギ・カラニー)という1種類を追加した9種類のプラーナーヤーマが紹介されています。また一般的に使われる「ウッディーヤーナ」という名前が、バーヒャ・ウッディヤーナ/バーヒョーッディヤーナと表現されている点、ヴァジローリやケーチャリーについて、かなり詳細に記載されている点が特徴とされています。

H.R 第3章

第三章は、84のアーサナについての詳細な解説が中心である。著者はまずアシュターンガ・ヨーガについて論じているが、マナサとカーヤカ・ニヤマしか論じていない。84のアーサナをリストアップしているが、そのうちの36のアーサナについてのみ詳しく説明し、プラーナーヤーマの意義、適切な実行、結果について述べている。

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ハタ・ヨーガにおいてアーサナは生物の数だけ存在し、840万のアーサナがあると言われます。そのうち84種類のアーサナが重要であると言われますが、その名前が全て挙がっていることがこのテキストの特徴です。またそのうち36種類のアーサナに関しては、技法の説明もされています。アーサナとトピックを扱った後、プラーナーヤーマの重要性やテクニック、効果などについて述べられています。

H.R 第4章

第四章では、サマーディ、ナーダ・アヌサンダーナの技法、ヨーガ的成熟の4つの段階(アーランバ、ガタ、パリチャヤ、ニシュパッティ)および各段階に関連する感覚について述べている。ピンダとブラフマンダについての考察、14のナーディーについての徹底的な説明が含まれている。

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この章にはサマーディの説明や、ナーダ・アヌサンダーナの4段階についての記載があります。またピンダとブラフマンダについての考察、14のナーディーについての徹底的な説明、各種文献への考察が含まれます。

H.R. 補足

『ハタ・ラトナーヴァリー』もYCB試験ではヨーガ・プロトコール・インストラクター/Level1やヨーガ・ウェルネス・インストラクター/Level2では問われることはありません。しかし代表的なハタ・ヨーガ・テキストとして認知しておくとヨーガの勉強を継続していく上で有益となると思います。

F. ゴーラクシャ・サンヒター/G.S

こちらの『ゴーラクシャ・サンヒター』も、D.の『シッダ・シッダーンタ・パッダティ』と同じヨーギン・ゴーラクシャによる著書であるとされています。そのためこの部分はゴーラクシャ・ナータの説明から始まっています。

ゴーラクシャ・ナータのグル/師はハタ・ヨーギンのマッツェーンドラ・ナータであり、彼はシヴァ神とパールヴァティーとの対話を通じて、ヨーガ・ヴィッディヤ(知識・知恵)という形でシヴァ神から直接教えを受けた。

シュリー・ディンタ(シヴァ神)の教えに基づき、ゴーラクシャ・ナータはマッツェーンドラ・ナータから学んだヨーガの主題を200の詩句にまとめた。

『ゴーラクシャ・サンヒター(大要)』は、『ゴーラクシャ・パッダティ』「 ゴーラクナータ師の示すヨーガの道』とも呼ばれる。ゴーラクシャ・ナータにより編纂された著作として広く知られている。

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インドの神話において、ハタ・ヨーガの始祖はシヴァ神であるとされています。そしてマッツェーンドラ・ナータはシヴァ神と妻のパールヴァティの対話を聴くことで直接教えを受けたとされている。そしてゴーラクシャ・ナータはマッツェーンドラ・ナータから教えを受けた弟子にあたり、ナータ派を創始したとされています。(諸説あり)

『ゴーラクシャ・サンヒター』は、『ゴーラクシャ・パッダティ』とも呼ばれ、約200節のシュローカに纏められています。またゴーラクシャ・ナータの著書に『ゴーラクシャ・シャタカ』というものがありますがこちらは約100節のシュローカで構成され、これらの文献の関係性については諸説あります。(上記文献には重複する内容が見られます)

第1章はシャタカⅠと題され、アーサナ、プラーナーヤーマ、プラティヤーハーラ、ダーラナー、ディヤーナ、サマーディからなるシャダンガ・ヨーガについて語っている。840万のアーサナが存在するが、重要なアーサナは84で、シッダ・アーサナとカマラ・アーサナ(パドマ・アーサナ)が最も重要なアーサナであると述べられている。この章では6つのチャクラ、16のアーダーラ、5つのアーカーシャも取り上げられている。

第2章はシャタカⅡと題され、3つの異なる形のプラーナーヤーマ、プラティヤーハーラ、ムドラー、チャクラ、サマーディについて述べている。

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このテキストの特徴はヨーガの実習体系が6階梯で示されており、これは「シャダンガ・ヨーガ」と呼ばれる。ヤマ・ニヤマを含まない、アーサナ、プラーナーヤーマ、プラティヤーハーラ、ダーラナー、ディヤーナ、サマーディで構成されている。ハタ・ヨーガのコンセプトについて明快に示されていることでも注目されるテキストです。

理解度チェック(YCB試験対応)

  • 『シッダ・シッダーンタ・パッダティ』の著者は次のうちどれか。(Who is the author of “Siddha Siddhanta Paddhati”)
  • A.チャウランギ・ナータ(Chauranginatha)
  • B.ゴーラクシャ・ナータ (Gorakdhanatha)
  • C.シャンカラーチャリヤ (Shankaracharya)
  • D.マドヴァーチャリヤ(Madhvacharya)
  • 『ハタ・ラトナーヴァリー』の著者は次のうちどれか。(Who is the author of “Hatha Ratnavali”)
  • A.シャンカラーチャリヤ (Shankaracharya)
  • B.スワーミー・ダヤーナンダ (Swami Dayananda)
  • C.スワーミー・シヴァーナンダ (Swami Shivananda)
  • D.シュリー・ニヴァーサ・バッタ (Shri Niwas Bhatt)

おわりに

今回扱ったD. 『シッダ・シッダーンタ・パッダティ』、E.『ハタ・ラトナーヴァリー』 、F. 『ゴーラクシャ・サンヒター』 もハタ・ヨーガの中核される文献です。特にゴーラクシャ・ナータによって著されたとされる『シッダ・シッダーンタ・パッダティ』、『ゴーラクシャ・サンヒター』 はヨーガを勉強する者にとっては神棚に置いておきたいレベルかと思います、笑 ただこれを知らないとヨーガは出来ないということではありませんので、どうかご安心ください。ちょっと肩が凝ってしまいそうな伝統的テキストの部分ですが、ヨーガを実習しながらふと気になった時に戻ってきてください。次回はハタ・ヨーガのテキストの残りの部分をカバーしようと思います。

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