第19回. WHO-CC ヨーガ・ガイドライン 1.9 ヨーガに関する誤解と事実

WHO-CC ヨーガ・ガイドライン

はじめに

みなさん、こんにちは。さて今回はWHOヨーガ・ガイドライン解説シリーズ第19弾となります。とうとう第1章の最後1.9まで辿り着きました。ひとまずここまで押さえておけばヨーガの基礎の概要に触れたことになります。

第1章 概要

  • 1.1 ヨーガ入門
  • 1.2 ヨーガの定義
  • 1.3 ヨーガの歴史と発展
  • 1.4 ヨーガの特徴
  • 1.5 伝統的なヨーガの流派/系統
  • 1.6 ヨーガに関する伝統的なテキスト
  • 1.7 文化的影響
  • 1.8 ヨーガの健康効果
  • 1.9 ヨーガに関する誤解と事実

全体の目次は第1回に載っていますので、こちらからご参照ください。

今回のテーマであるヨーガに関する誤解と事実は、インドでヨーガを学ぶ上でまず初めに扱われるトピックでもあります。ぜひ要点を一緒に確認していきましょう。

まず本文に入る前に、今回も簡単にポイントを見て行きたいと思います。まずヨーガは特定の宗教ではありません。宗教文化を超えた普遍的なものです。それは呪術や黒魔術の1種ではなく、出家者だけのものでもありません。またアーサナとエクササイズはどちらも健康やウェルネスを目的としたヨーガの範疇にありますが、異なる目的や役割を持っています。またヨーガはアーサナなどの特定の技法だけを指すのではなく、人格に関する要素の集合体全体となります。ヨーガは単なる体重減少のためのエクササイズではなく、多くの生活習慣病、心身症、自己免疫性疾患などの予防や管理にも有効なことが科学的にも証明されてきています。しかしその恩恵を最大限に得る為には、準備を含めた正しい実習が必要となります。

ヨーガに関する誤解と事実

さて、それでは一緒に本文を見ていきましょう。

ヨーガにはいくつかの誤解があります。 それらを明らかにする必要がある。 いくつかの誤解とその根底にある事実を以下に示します。

WHO-CC CONSUMER INFORMATION ON PROPER USE OF YOGA

まずはWHO-CCに掲載されている一覧を示します。ざっと目を通してみてください。

誤解 事実
ヨーガは組織化された宗教であるヨーガは、実存的な現実に関する普遍的な真理を扱う実践的なサイエンスである
ヨーガの要素は多くの 宗教的実践の中に見られる 
特定の宗教について語るものではない
ヨーガは儀式に基づく呪術であるヨーガは幸福で充足した人生と生活を送るための哲学でありサイエンスである 
ヨーガはサンニャーシン(出家者)のみが実践するものである(セージ/賢者)。これは世俗的な所有物を放棄することを教えるものでり、一般的な人々のためのものではない。 ヨーガは正しい生き方を規定するヨーガは幸せで、健康で、充足した生活を送る方法に関係している
ヨーガはアーサナやプラーナーヤーマだけである。 またはヨーガは瞑想/メディテーションを意味する。 ヨーガは、ヤマ、ニヤマ、アーサナ、プラーナーヤーマ、プラティヤーハーラ、ダーラナー、ディヤーナ(瞑想)、サマーディ、シャット・カルマ、ムドラー、 バンダ、マントラ・ジャパ、適切な食事など多くの要素で構成される
アーサナとエクササイズは同じである両者には、その目的、目標、そして意識レベルにおいての実習の効果において明確な違いがあり、区別される。
ヨーガを実践できるのは健康な人だけであるヨーガは、健康な人も不健康な人(病気を患っている人も含む)も同じように実践することができる
ヨーガは体重を減らすためのものであるヨーガは、体重の管理やその他の健康に関連する問題にも有効です。 
ヨーガの練習はどこでもいつでもできるヨーガを実践する際には、最初にきちんと守るべきルールがある。
WHO-CC CONSUMER INFORMATION ON PROPER USE OF YOGA

ポイント解説

ここからは一つずつ簡単にポイントを解説していきます。

誤解 1 事実 1
ヨーガは組織化された宗教であるヨーガは、実存的な現実に関する普遍的な真理を扱う実践的なサイエンスである
ヨーガの要素は多くの 宗教的実践の中に見られる 
特定の宗教について語るものではない
WHO-CC CONSUMER INFORMATION ON PROPER USE OF YOGA

このガイドブックでも何度も繰り返されているように、ヨーガは特定の組織化された宗教ではありません。パタンジャリのヨーガ哲学に述べられる心に関する体系的な理論は普遍的なものです。ヒンドゥー教、イスラム教、キリスト教、仏教、その他それぞれの宗教的実践や思想と共存することが可能です。

誤解 2事実 2
ヨーガは儀式に基づく呪術である ヨーガは幸福で充足した人生と生活を送るための哲学でありサイエンスである 
WHO-CC CONSUMER INFORMATION ON PROPER USE OF YOGA

中世インドで発展したハタ・ヨーガはタントラの影響を受けていますが、特定の儀式や呪文を用いて超自然的な力を操る呪術と同一視されることがあります。技法として重複する部分はあるものの、タントラはより広範な精神的・哲学的な体系です。そしてハタ・ヨーガ、およびヨーガ全体は、継続的な幸福へ向かうための哲学、およびサイエンスでありその包括する範疇は大きく異なります。

誤解 3事実 3
ヨーガはサンニャーシン(出家者/セージ/賢者)のみが実践するものである。
これは世俗的な所有物を放棄することを教えるものでり、一般的な人々のためのものではない。 
ヨーガは正しい生き方を規定する。
ヨーガは幸せで、健康で、充足した生活を送るための方法論に関係している。
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ヨーガを実践する為に必ずしも出家する必要はありません。ヨーガは社会的生活を送っている私たちが自分の置かれた環境の中でより良い生き方を追求し、幸福で、健康で、人生へ充足した感覚を得られるための方法を提示してくれます。心身の健康作りに関する身体的技法はもちろんのこと、カルマ・ヨーガと言われる日々の行為にどのような態度/姿勢で取り組むかと言うことも大切なヨーガの実践となります。

誤解 4事実 4
ヨーガはアーサナやプラーナーヤーマだけである。 またはヨーガは瞑想/メディテーションを意味する。 ヨーガは、ヤマ、ニヤマ、アーサナ、プラーナーヤーマ、プラティヤーハーラ、ダーラナー、ディヤーナ(瞑想)、サマーディ、シャット・カルマ、ムドラー、バンダ、マントラ・ジャパ、適切な食事など多くの要素で構成される
WHO-CC CONSUMER INFORMATION ON PROPER USE OF YOGA

ヨーガは、さまざまな要素の組み合わせで構成されており、アーサナ、プラーナーヤーマ、ディヤーナなどはその一部に過ぎません。さらに、適切な食事(ミターハーラやユクタ・アーハーラ)、日々の暮らし方(ディナーチャリヤ):活動と睡眠のバランスなど、季節に合わせた暮らし方(リトゥーチャリヤ)、適切な社会との関わり、および価値観(ヤマ・ニヤマ)なども含まれており、これらすべての要素の集合体全体がヨーガとなります。

誤解 5事実 5
アーサナとエクササイズは同じである両者には、その目的、目標、そして意識レベルにおいての実習の効果において明確な違いがあり、区別される。
WHO-CC CONSUMER INFORMATION ON PROPER USE OF YOGA

まずアーサナもエクササイズも健康やウェルネスを目的としたヨーガの枠組みに入ります。ただその役割分担として、身体的フィットネス向上を主な目的とした筋トレや有酸素運動とは異なり、アーサナは心の安定を主な目的としています。またアーサナの起源はインド伝統文献にあり、そのメソッドは漸進的筋弛緩法や静的ストレッチに類似しています。

誤解 6事実 6
ヨーガを実践できるのは健康な人だけであるヨーガは、健康な人も不健康な人(病気を患っている人も含む)も同じように実践することができる
WHO-CC CONSUMER INFORMATION ON PROPER USE OF YOGA

ヨーガには多種多様な技法があります。そのため疾患があっても、それに合わせた実践を行うことができます。あらゆる年齢、性別の方が各ライフステージや状況に合わせて生涯実践できることがその特徴でもあります。ヨーガを始めるのに”男のものではない”、”硬すぎるから無理”、”病気があるから無理”、”妊娠しているから無理”、”年齢的に遅すぎる”などということはないのです。ただし疾患治療や妊娠中にも安全に使用する為には医師やヨーガ専門家による適切な監督と指導が必要です。

誤解 7事実 7
ヨーガは体重を減らすためのものであるヨーガは、体重の管理やその他の健康に関連する問題にも有効です。 
WHO-CC CONSUMER INFORMATION ON PROPER USE OF YOGA

フィットネスジムなどでヨーガの体重減量効果が強調されることがありますが、もっと多くの効果や可能性を持っています。生活習慣病や心身症、最近は自己免疫性疾患などへの効果も注目されています。また体重減少に関してですが静的ストレッチに類似したアーサナだけでは難しいので、適切な食事(ミターハーラやユクタ・アーハーラ)、生活スタイル、その他の運動(ヴィヤーヤーマ)などとの組み合わせが必要となります。また呼吸法は代謝や消化機能を整えるため痩身効果が期待できます。ちなみに呼吸法/プラーナーヤーマの痩身効果はハタ・ヨーガの伝統文献にも記述されています。

誤解 8事実 8
ヨーガの練習はどこでもいつでもできるヨーガを実践する際には、最初にきちんと守るべきルールがある。
WHO-CC CONSUMER INFORMATION ON PROPER USE OF YOGA

最近はビアYOGAなどといった飲酒を伴いながらのYOGAの種類もあるようですね。飲酒を含め交感神経を優位にするような行為はヨーガ実習前には推奨されません。また胃腸に負荷がかかるので食後も控える必要があります。ヨーガ実践前には空腹(食後2-4時間)であること、清潔で静かな実習場所、心がある程度落ち着いていることなど準備が必要です。手軽さが魅力でもありますが、最大限の効果を得る為に、しっかりと準備を整えましょう。

理解度チェック(YCB試験対応)

  • ストレスの緩和に有効な実習はどれか。Useful practice to relieve the stress is
  • A. アーサナ (Asana)
  • B. プラーナーヤーマ (Pranayama )
  • C. ディヤーナ (Dhyana)
  • D. 上記全てを含む  (All of the above)
  • ヨーガ的ライフスタイルに含まれるのはどれか。—- comes under Yogic Lifestyle-
  • A. ミターハーラ (Mitahaar)
  • B. ヴィヤーヤーマ(Vyayam)
  • C. ディヤ・チャーリヤ (Dincharya)
  • D. 上記すべてを含む (All of the above)
  • ヨーガ教育における価値観について提示しているのはどれか。The value oriented aspect of yoga education is_______
  • A. ヤマとニヤマ(Yama-Niyama)
  • B. アーサナ (Asana)
  • C. シャット・カルマ(Shatkarma)
  • D. 上記いずれでもない  (None of the above)
  • ヨーガ修行者の食事の規則のことをなんと言うか。Yogi’s food is called
  • A. アラパーハーラ (Alpahar)
  • B. ミターハーラ (Mitahar )
  • C. プラッティヤーハーラ (Pratyahar)
  • D. 上記全てを含む  (All of the above)
  • ヨーガの実習を始めてはいけないタイミングは次のどれですか。Yoga abhyas should not be started______________
  • A.昼食後 (After lunch)
  • B.夜中 (Mid night)
  • C.発熱時 (Fever)                   
  • D.上記の全てを含む (All of the above)

おわりに

さて、とうとうWHO-CCヨーガ・ガイドブックの第1章をすべて見ていきました。

ヨーガは単なる身体運動ではなく、包括的なライフスタイルであることが一緒に確認できたと思います。健康やウェルネス分野においてライフスタイルの重要性はヘルスサイエンス分野などでも証明されていますが、ヨーガではこれらについてインドの伝統文献にサンスクリット語で書かれています。そしてヨーガの目指すホリスティックな健康を達成するためには、単なる生活習慣だけでなく人生を貫く価値観や思想も含めた人生全ての側面します。それにより途切れることのない幸福を目指します。

さてそんなヨーガ・ライフへ今日も一緒に一歩前進。本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

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