第10回. WHOヨーガ・ガイドライン 1.6 ヨーガに関する伝統的なテキスト(1)

WHOヨーガ・ガイドライン

はじめに

みなさん、サワディカー/こんにちは。インドを経てバンコクに戻った竹内です。前回から時間が空いてしまいましたが、今回でWHOヨーガ・ガイドライン解説シリーズも第10弾となります。今回からは「ヨーガに関する伝統的なテキスト」を扱います。

ヨーガ初めての方には難しく感じる部分かもしれませんが、まずは「ヨーガはインド伝統文献に根拠を持つのだ!」ということを認識していただけえればと思います。またインド政府Ayush省傘下のヨーガ教育能力検定試験/YCB試験ではこれら伝統文献についての知識が必須となります。(各レベルにより範囲指定あり)ヨーガ・インストラクターやティーチャーの方はこの機会に一緒にヨーガの主な伝統文献について確認していきましょう。終わりに理解度チェックもついていますので、ぜひチャレンジしてみてください。またこの項は広範になりますので、数回に分けて解説していきたいと思います。

第1章 概要

  • 1.1 ヨーガ入門
  • 1.2 ヨーガの定義
  • 1.3 ヨーガの歴史と発展
  • 1.4 ヨーガの特徴
  • 1.5 伝統的なヨーガの流派/系統
  • 1.6 ヨーガに関する伝統的なテキスト
  • 1.7 文化的影響
  • 1.8 ヨーガの健康効果
  • 1.9 ヨーガに関する誤解と事実

全体の目次は第1回に載っていますので、こちらからご参照ください。

 ヨーガに関する伝統的なテキストの紹介(A-L)

この章ではA-Lまでの12種類の伝統文献が紹介されています。それらを以下に紹介します。

  1. A. パータンジャラ・ヨーガ・スートラ/パタンジャリ・ヨーガ・スートラ/ヨーガ・ダルシャナ
  2. B. ハタ・ヨーガ・プラディーピカー
  3. C. ゲーランダ・サンヒター
  4. D. シッダ・シッダーンタ・パッダティ
  5. E. ハタ・ラトナーヴァリー
  6. F. ゴーラクシャ・サンヒター
  7. G. シヴァ・サンヒター
  8. H. ヴァーシシュタ・サンヒター
  9. I. バガヴァッド・ギーター
  10. J. ウパニシャッド
  11. K. ヨーガ・ウパニシャッド
  12. L. ブラフマ・スートラ

今回の項ではA. パータンジャラ・ヨーガ・スートラ/パタンジャリ・ヨーガ・スートラ/ヨーガ・ダルシャナの部分について一緒に見ていければと思います。

「ヨーガは単なるエクササイズではない」と何となく聞いたことがある方も多いと思います。ではどんなところがエクササイズと違うのでしょうか?それはズバリ「ヨーガ実習は哲学体系にその根拠がある」ということです。ポーズ/アーサナについても、ポーズ/アーサナとは何か?どのようにポーズを取るべきか、それによりどのような効果が得られるかなどの原理原則が提示されています。またポーズだけでなく、呼吸法やメディテーション、その前提となるヨーガそのものの定義や日常生活における規律なども提示されています。

ではそんなヨーガ実習の根拠となる哲学書であるヨーガ・スートラの概要について一緒に見ていきましょう!

A.パータンジャラ(パタンジャリ)・ヨーガ・スートラ/ヨーガ・ダルシャナ

ヨーガの賢者として高名なマハーリシ・パタンジャリは、ヨーガの叡智をパータンジャラ・ヨーガ・スートラ/ヨーガ・ダルシャナとして知られる古典的な哲学著作として編纂しました。この哲学書はウパニシャッドの叡智の影響を受け、サーンキャ哲学に基づいている。このテキストにおいて、パタンジャリは心理的な動揺をコントロールしカイヴァリヤまたはモークシャ(生と死の絶え間ないサイクルからの解放または自由)を得るための方法として、アシュターンガ・ヨーガを提唱している。

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インドの文脈における「哲学」は「ダルシャナ」と呼ばれます。ダルシャナという言葉は、語根の「ドゥルシュ(√dṛś, “見る、観る、探求する”)に由来しています。このダルシャナには9つの主要な哲学体系があります。そしてこれらの9つの哲学体系は、正統派/アースティカ・ダルシャナ(Āstika darśana) 非正統派/ナースティカ・ダルシャナ(Nāstika darśana)の2つに分類されます。

アースティカ・ダルシャナ/正統派はヴェーダの権威(正当性)を受け入れ、一方のナースティカ・ダルシャナ/非正統派はヴェーダの権威(正当性)を表向きには受け入れていません。ちなみに上記に記載されているウパニシャッドもヴェーダの一部です。

アースティカ・ダルシャナ/正統派には6つの哲学体系があり、ミーマーンサー、ヴェーダーンタ、ニャーヤ、ヴァイシェーシカ、サーンキャ、そしてヨーガです。一方のナースティカ・ダルシャナ/非正統派には3つの哲学体系があり仏教、ジャイナ教そしてチャールヴァカ(唯物論)です。

アースティカ・ダルシャナ/正統派の6つの哲学体系は、それぞれ対となる姉妹哲学で構成されており、サーンキャ哲学とヨーガ哲学は対とみなされています。

サーンキャ哲学は世界の構成要素、苦痛の根本原因、苦痛の解決策、人間の心の本質や最終的な目標などを体系的に提示しています。一方ヨーガ哲学はサーンキャ哲学の示す最終目標へ至るための実践的側面について体系的に提示しています。そのためヨーガ哲学はサーンキャ哲学の実践面であり、サーンキャ哲学はヨーガ哲学の理論面であると言われます。

マハーリシ・パタンジャリにより編纂されたヨーガ・スートラには、実践面としてアヴィヤーサとヴァイラーギャ、イーシュヴァラ・プラニダーナ、チッタ・プラサーダナ、クリヤー・ヨーガ、アシュターンガ・ヨーガなど様々な実践体系が記載されていますが、その中でも最も有名で広範に実践されているのがアシュターンガ・ヨーガの8階梯であり、そこにはサマーディへ至るための実習体系が8つのステップにて段階的に示されています。ちなみにこの8ステップとは、ヤマ、ニヤマ、アーサナ、プラーナーヤーマ、プラッティヤーハーラ、ダーラナー、ディヤーナ、サマーディです。

このテキストには195句の格言(スートラ)があり、4つの章(Pada):サマーディ・パーダ/Samadhi Pada, サーダナ・パーダ/Sadhana Pada、ヴィブーティ・パーダ/Vibhuti Pada、カイヴァリヤ・パーダ/Kaivalya Padaの4つの章(Pada)に分かれている。

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パタンジャリのヨーガスートラは全部で195句のスートラ4つの章/パーダで構成されています。

  • 1章サマーディ・パーダ:心の構造や機能、サマーディについて説明
  • 2章サーダナ・パーダ:アシュターンガ・ヨーガをはじめとした実習体系について説明
  • 3章ヴィブーティ・パーダ:メディテーションやサンヤマ、その結果(ヴィブーティ)について説明
  • 4章カイヴァリヤ・パーダ:カイヴァリヤや心の本質について説明

この辺りについてはYCB試験の必須項目になるので、スートラの数、章の数、章の名前などをしっかりと押さえておきましょう!

第1章 サマーディ・パーダ/Samadhi Pada(51スートラ)

第1章サマーディ・パーダ/Samadhi Padaには51句のスートラを含んでいる。

この章では、ヨーガを心の乱れ/作用をコントロールすること(Yogash Chitta Vritti Nirodha)と定義している。

この章では、心作用(チッタ・ヴリッティ)の性質と種類、そしてヨーガで成功するための継続的な修行(アヴィヤーサ)と離欲(ヴァイラーギャ)の重要性について述べられている。この章では友愛、慈悲/思いやり、喜び、無関心といった心理的態度の育成と、様々な種類のサマーディに焦点が当てられている。

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パタンジャリは1章2節で「ヨーガシュ・チッタ・ヴィルッティ・ニローダハ」ヨーガは心作用の停止であると定義しています。

1章にはヨーガの定義、心作用(チッタ・ヴリッティ)の性質と5つの種類、アヴィヤーサ(修行)とヴァイラーギャ(離欲)、イーシュヴァラ・プラニダーナ、心を散乱させるものとその付随物(アンタラーヤとヴィクシェーパ・サハブヴァ)、心を清澄化する一連の技法(チッタ・プラサーダナ・テクニック/四無量心など)、精神統一状態(サマーパッティ)、サビージャ・サマーディ(有種子三昧)とニルビージャ・サマーディ(無種子三昧)などについて記載されています。

第2章 サーダナ・パーダ/Sadhana Pada(55スートラ)

第2章サーダナ・パーダ/Sadhana Padaは55句のスートラを含んでいる。

クリヤー・ヨーガとアシュターンガ・ヨーガという2つのヨーガの形について概説している。パンチャ・クレーシャに焦点を当てている。

この章では、アシュタンガ・ヨーガの前半の5つの肢則(ヤマ、ニヤマ、アーサナ、プラーナーヤーマ、プラティヤーハーラ)について考察されている。

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2章にはクリヤー・ヨーガ、クレーシャ(煩悩)、煩悩の除去方法、苦痛・苦痛の原因・苦痛の除去から解脱・苦痛の除去方法、アシュターンガ・ヨーガ(ハビランガ・ヨーガ/外的ヨーガ:ヤマ、ニヤマ、アーサナ、プラーナーヤーマ、プラティヤーハーラ)などが記載されています。

第3章 ヴィブーティ・パーダ/Vibhuti Pada(55スートラ)

第3章ヴィブーティ・パーダ/Vibhuti Padaは55句のスートラを含んでいる。

この章は、アシュターンガ・ヨーガの後半の3つの肢則(ダーラナー、ディヤーナ、サマーディ)から始まる。この章では、ダーラナー、ディヤーナ、サマーディの3つの実践を組み合わせたサンヤマの修練に焦点を当てている。

この章では、サンヤマの実践によって到達できる様々な超常的な力(シッディ)について論じている。しかし、この章でこれらの力を得ようとする誘惑は、解脱への道を妨げるものであり、避けなければならないと警告している。

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3章にはアシュターンガ・ヨーガ(アンタランガ・ヨーガ/内的ヨーガ:ダーラナー、ディヤーナ、サマーディ)、サンヤマ(綜制)、心の変化する状態とその構造、サンヤマの結果として生じる超自然力などについて記載されています。

第4章 カイヴァリヤ・パーダ/Kaivalya Pada(34スートラ)

第4章カイヴァリヤ・パーダ/Kaivalya Padaは34句のスートラを含んでいる。

カイヴァリヤとは独立した状態を意味するが、ここではヨーガの究極の目的である解脱(モクシャ)のために使われている。この章では、カイヴァリヤの本質について語り、超越的な「自己」の実在について述べている。

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4章には時に仏教哲学の教義への議論も見られます。ダルマ・メーガ・サマーディをカイヴァリヤ(解脱)が起こる究極の状態であると定義し、この状態に至ることによって「心作用の完全な停止/チッタ・ヴルッティ・ニローダ」が起こるとの説明がみられます。

インド政府Ayush省傘下のヨーガ教育委員会/Yoga Certification Boardによるヨーガ検定試験ではパタンジャリのヨーガ・スートラの部分的な暗唱が必須となっています。Yoga Protocol Instructor/Level1では第I章-1-12句、Yoga Wellness Instructor/Level2ではI章1~12句、II章46~51句、III章1~4句が暗唱の必須スートラとなります。

理解度チェック(YCB試験対応)

  • ヨーガ・ダルシャナ/哲学のスートラの数はいくつか。(Number of sutra in Yoga Darshna?)
  • A. 185 (185句)
  • B. 190 (190句)
  • C. 195 (195句)
  • D. 200 (200句) 
  • 『パタンジャリ・ヨーガ・スートラ』のパーダ/章の順序として正しいものはどれか。(Which is the correct sequence of the PADA of the Patanjali Yoga Sutra)
  • A. サマーディ、サーダナ、カイヴァリヤ、ヴィブーティ(Samadhi, Sadhana,Kaivalya and Vibhuti )
  • B. サマーディ、サーダナ、ヴィブーティ、カイヴァリヤ(Samadhi, Sadhana, Vibhuti and Kaivalya )
  • C. サマーディ、カイヴァリヤ、サーダナ、ヴィブーティ(Samadhi, Kaivalya, Sadhana and Vibhuti)
  • D. サーダナ、カイヴァリヤ、サマーディ、ヴィブーティ(Sadhana ,Kaivalya , Samadhi, and Vibhuti )
  • 『パタンジャリ・ヨーガ・スートラ』のサマーディ・パーダにはいくつの句があるか。(How many sutras are there in samadhi pada in Patanjali Yoga Sutra?)
  • A. 34 (34句)
  • B. 55 (55句)
  • C. 51 (51句)
  • D. 45 (45句)
  • チッタ・プラサーダナ”が含まれる文献はどれか。(In which book Chittprasadanam is describe)
  • A. 『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』 (『Hatha Yoga Pradipika』)
  • B. 『パタンジャリ・ヨーガ・スートラ』 (『Patanjali Yoga Sutra』)
  • C. 『ヴァーシシュタ・サンヒター』 (『Vashishth Samhita 』)
  • D. 『バガヴァッド・ギーター』  (『Bhagwad Geeta』)

おわりに

ここでは『パータンジャラ・ヨーガ・スートラ』のイントロダクションについて紹介していきました。ヨーガの学びを継続するにあたり、このスートラは一生学び続ける哲学書となります。ぜひ今回をエントリーポイントとして、実習と並行しながら学んでいきましょう。今後こちらのブログでも解説を加えていきたいと思います。次回はハタ・ヨーガ文献である『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』『ゲーランダ・サンヒター』についてみていきましょう。

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