第5回. WHOヨーガ・ガイドライン 1.3 ヨーガの歴史と発展(前半)

WHOヨーガ・ガイドライン

はじめに

みなさん、シンチャオ/こんにちは。今日はベトナムから竹内です。バンコクから移動し、ラオスを経由、現在尼僧院でのヨーガ指導のためハノイに滞在しています。現在ベトナムは旧暦新年の準備で大忙しです。

さて前回から時間が空いてしまいましたが、今回はWHOヨーガ・ガイドライン解説シリーズ第5弾、ヨーガの歴史と発展に入ります。歴史と発展と聞くとちょっと難しそうで構えてしまう方も多いのではないでしょうか。ただポイントとして「ヨーガの起源はインドの伝統文化にある」ということを一緒に確認できればと思います。またこの部分は前半と後半に分けて、今回は主にヨーガの起源について、そして次回で発展について取り上げていきたいと思います。インドの示すヨーガの起源、伝統に根付く価値体系、考古学的根拠や文献学的根拠、伝統的な継承方法、インド伝統の宗教儀礼の一部であったヨーガがパタンジャリの時代に普遍的な実践として体系化された過程までを辿っていければと思います。

第1章 概要

  • 1.1 ヨーガ入門
  • 1.2 ヨーガの定義
  • 1.3 ヨーガの歴史と発展
  • 1.4 ヨーガの特徴
  • 1.5 伝統的なヨーガの流派/系統
  • 1.6 ヨーガに関する伝統的なテキスト
  • 1.7 文化的影響
  • 1.8 ヨーガの健康効果
  • 1.9 ヨーガに関する誤解と事実

全体の目次は第1回に載っていますので、こちらからご参照ください。

ヨーガの起源

ヨーガの実践は、文明の夜明けと共に始まったと考えられている。古代のヴェーダ文献によれば、シヴァ神がヨーガの最初の師とみなされている。またヨーガは先に述べたように、紀元前2700年に遡るインダス文明の「不朽の文化的所産」であると広く考えられている。

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ヨーガの起源については様々な見解があります。例えばサンスクリット文献に記載されるヒラニヤガルバ(黄金の胎児/黄金の子宮)は、宇宙の始まりや創造的な根源とされますが、それと同時にヨーガの起源としてみなされることもあります。また上記のように文明の夜明け、またヴェーダ文献やハタ・ヨーガ文献を根拠としてシヴァ神(ルドラ神)が挙げられる場合もあります。また考古学的起源としてはインダス文明にみられる遺跡や印章がヨーガの起源とみなされています。

https://en.wikipedia.org/wiki/Hiranyagarbha
https://en.wikipedia.org/wiki/Rudra

インドの伝統的価値体系

ヨーガは物質的な発展と精神的な向上の双方を包含した、人間の基本的価値観に根ざしたものである。

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ここで「物質的な発展と精神的な向上の双方を含んだ」という言及がされています。

インドのヒンドゥー教にはプルシャ・アルタ/プルシャールタ(人生の目的)という哲学的概念があり、これは人生の4つの目的/目標や価値観を指します。4つの価値観は以下の通りです:

アルタ(Artha):富や物質的な成功。経済的な成功や安定、社会的な地位など、物質的な目標を追求すること。

カーマ(Kāma): 感覚的な喜びや快楽。美、愛、愉悦など感覚的な経験を追求すること。

ダルマ(Dharma):正しい行動、義務、道徳的な原則。個人や社会において正しい行動を実践すること。

モークシャ(Moksha): 解脱や解放。輪廻転生のサイクルを超越し、精神性における最終的な目標に到達すること。

これらプルシャールタは、ヒンドゥー教徒にとって人生をバランス良く生きるための指針となります。そしてヨーガの実践/修行もこの4つの価値観を包括します。バランスが崩れた状態というのは、例えば地位や名誉の追求に偏り、その他の倫理的価値などを見失うというケースなどが挙げられます。過労死や過労自殺の問題も多い現代社会で、これらの価値観とともにライフスタイル・バランスを見つめ直すことは生活の質の向上(QOL)に多いに役立つことと思います。

ヨーガの考古学的根拠や文献的根拠

古代インドにおけるヨーガの存在は、インダス川流域の文明から出土したヨーガのモチーフやヨーガ・サーダナに従事する人物を描いた数多くの印章や遺物によって証明されている。 またこれらの遺物は、男根のシンボルや母なる女神の偶像の印章を通して、タントラ・ヨーガへの影響も示唆している。

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インダス川流域の文明の遺跡が、当時の非暴力を示唆していたり、出土した印章などがヨーガのポーズや瞑想の姿を表していると言われています。これらはインドの国立博物館にも展示されています。

インダス川流域の遺跡)
国立博物館、ニューデリー
ヨーガのポーズをとる姿が刻印された印章
国立博物館、ニューデリー
ヨーガのポーズをとる姿が刻印された印章国立博物館、ニューデリー

ヨーガの描写は、民間伝承、ヴェーダやウパニシャッドの遺産、仏教とジャイナ教の伝統、ダルシャナ(インド哲学)、マハーバーラタとラーマーヤナの叙事詩、シヴァ派やヴィシュヌ派の有神論的伝統、タントラの伝統にも記録されている。

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上記では考古学的根拠を見てきましたが、ここでは文献的根拠がトピックに上がっています。インドの民間伝承、およびヒンドゥー教の元となるヴェーダやウパニシャッドの伝統、仏教やジャイナ教、インドの各種哲学体系、インドの二大叙事詩、有神論的な伝統やタントラの伝統など、各種インド伝統文献の中で多種多様なヨーガについての言及をみることができます。

https://ja.wikipedia.org/wiki/ジャイナ教
https://ja.wikipedia.org/wiki/釈迦
https://ja.wikipedia.org/wiki/タントラ#

伝統的なヨーガの継承方法

また、南アジアの秘教的な伝統の中には、原初的で純粋な形態のヨーガが表現されている。 これはヨーガがグルの直接指導の下で実践され、その精神的価値が特に重要視された時代である。ヨーガはウパーサナの一部であり、ヨーガ・サーダナは彼らの儀式に組み込まれていた。ヴェーダの時代には、太陽は最も重要視されていた。 スーリヤ・ナマスカーラは、この影響を受けて後に考案されたのかもしれない。

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ヨーガには上記のような文章/文献として残されていない側面もあります。なぜなら元々ヨーガは各流派/系統における師弟関係の口伝により継承されてきたからです。この師弟関係をグル・シシュヤ・パランパラと言います。ウパーサナとはバラモン教の宗教儀礼/精神修行ですが、ヨーガもこの儀礼の中に組み込まれていました。また太陽神を崇拝する慣習は多くの宗教で見られますが、インドでも太陽神は重要視されており、スーリヤ・ナマスカーラ(太陽礼拝)という実習がヨーガの枠組みに組み込まれています。(起源については諸説あり。)

マハーリシ・パタンジャリによるヨーガの体系化

プラーナーヤーマは毎日の儀式の一部であり、捧げ物でもあった。 ヨーガはヴェーダ以前の時代(紀元前2700年)には実践されていたが、賢者であるマハーリシ・パタンジャリは、『ヨーガ・スートラ』に当時存在していたヨーガの実践、その意味、関連する知識を体系化して記述した。パタンジャリ以後も、多くの賢者やヨーガの達人たちが、その実践や文献を通して、ヨーガの保全と発展に大きく貢献してきた。

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ヨーガ的呼吸法として知られるプラーナーヤーマも、伝統的にはインドの宗教的儀式の一部として実践されていました。しかしパタンジャリの『ヨーガ・スートラ』では、プラーナーヤーマは普遍的でシンプルな呼吸の操作として記述されています。またパタンジャリはヨーガそのものをアシュターンガ・ヨーガという八階梯/八肢則のヨーガとして体系化しています。パタンジャリはヨーガを創造したのではなく、それまであったヨーガを体系的に編纂した人物です。ここには特定の宗教に属さない、普遍的なヨーガの原理原則が明確に記述されています。このパタンジャリの『ヨーガ・スートラ』は、今もなお世界中のあらゆる宗教文化におけるヨーガ愛好家たちによって、生きた経典として親しまれています。

これらの文献的証拠は、ヴェーダ以前の時代からパタンジャリの時代まで及び、この時系列を通してヨーガの存在を確固たるものにしている。

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ヴェーダ文献に書き記されている内容は世界の起源を語ることもあり、ヴェーダ以前の時代からパタンジャリの時代までのヨーガの根拠を権威ある伝統文献にて見ることができます。

おわりに

さて今回はインドの示すヨーガの起源、伝統に根付く価値体系、考古学的根拠や文献学的根拠、伝統的な継承方法、インド伝統の宗教儀礼の一部であったヨーガがパタンジャリの時代に普遍的な実践として体系化された過程について辿ってきました。ヨーガの歴史(主に起源)を知ることで、ヨーガはインド伝統文化全体に根付いているということ、そしてその芳醇な価値体系を垣間見ることができたのではないでしょうか。さて次回はヨーガがどのようにインド国内で発展して行ったのか、また世界に普及して行ったのかという部分を見ていきたいと思います。

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