第8回. WHOヨーガ・ガイドライン 1.5 伝統的なヨーガの流派/系統(前半)

WHOヨーガ・ガイドライン

はじめに

みなさん、シンチャオ/こんにちは。本日もベトナムから竹内です。

今回はWHOヨーガ・ガイドライン解説シリーズ第8弾、伝統的なヨーガの流派/系統の項となります。この部分は前半と後半に分けて解説していきたいと思います。インド伝統のヨーガには、多種多様な流派や系譜があります。ここではその中でもWHOヨーガ・ガイドラインで主要な流派/系譜と定義されているものを一つずつ確認するとともに、それらの最終的な目的/目標についてみていきたいと思います。

第1章 概要

  • 1.1 ヨーガ入門
  • 1.2 ヨーガの定義
  • 1.3 ヨーガの歴史と発展
  • 1.4 ヨーガの特徴
  • 1.5 伝統的なヨーガの流派/系統
  • 1.6 ヨーガに関する伝統的なテキスト
  • 1.7 文化的影響
  • 1.8 ヨーガの健康効果
  • 1.9 ヨーガに関する誤解と事実

全体の目次は第1回に載っていますので、こちらからご参照ください。

多種多様なヨーガの伝統的流派/Traditional School of Yoga

ヨーガのさまざまな哲学、伝統、系統、グル・シシュシャ・パランパラにより、多様な伝統的流派/系統が生まれました。

これらの流派/系統には、ジュニャーナ・ヨーガ、バクティ・ヨーガ、カルマ・ヨーガ、パータンジャラ・ヨーガ、ハタ・ヨーガ、バウッダ・ヨーガ、ジャイナ・ヨーガ、クンダリニー・ヨーガ、マントラ・ヨーガなどがある。 それぞれの流派/系統は ヨーガの究極の目的と目標につながる独自の哲学、アプローチ、実践があります。

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インド伝統のヨーガには、上記のように多種多様な流派/系統があります。前半ではジュニャーナ・ヨーガ、バクティ・ヨーガ、カルマ・ヨーガ、パータンジャラ・ヨーガの4つの流派、次回後半ではハタ・ヨーガ、バウッダ・ヨーガ、ジャイナ・ヨーガ、クンダリニー・ヨーガ、マントラ・ヨーガについて確認していきましょう。

ジュニャーナ・ヨーガ/JNANA YOGA

ジュニャーナ・ヨーガは、知識(ジュニャーナ)を通して、(属性のない)ブラフマンを悟るための知性の道である。

ジュニャーナ・ヨーガによると アヴィディヤー(無知)は苦痛と苦悩の根本原因である。

その根底にある哲学は、アヴィディヤーのせいで、人は自分自身を身体、心、頭脳、人種、国籍など、さまざまな形と同一視し、世俗的な快や財を追い求め続けているというものである。

しかし、これらの対象は永続的な幸福を与えることはできない。 永続的な幸福と至福を得るためには 「自己」(アートマン)と超越意識(パラマートマン)についての本当の知識を得る必要がある。 この知識こそが無知の闇を払拭する手段となり、私たちの内なる意識を啓発します。

この学派/系統の主な性質は、属性のないブラフマン、悟りの手段としてのジュニャーナ、そして悟りによる解脱(モークシャ)です。

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https://en.wikipedia.org/wiki/Jnana_yoga

ジュニャーナ・ヨーガは知識のヨーガと言われます。これはインドのヒンドゥー教文化における究極の真理であるブラフマンについて知識を通じて悟ることを目的とします。インド哲学全般において私たちの苦痛や苦悩の根本原因は究極の真理に対する無知(アヴィディヤー)であるとされています。真理についての知識を学ぶことにより、無知を払拭し、一時的な喜びや快感を追い求めるのではなく、永続的な幸福や至福の獲得を目的とします

具体的にはヴェーダーンタ哲学を学習することがジュニャーナ・ヨーガであり、哲学の道とも言えます。この分野の代表的なテキストである『ウパニシャッド』『ブラフマ・スートラ』『バガヴァット・ギーター』の3つを合わせて「プラスターナ・トライー」と呼びます。

バクティ・ヨーガ/BHAKTI YOGA

バクティ・ヨーガは悟りへと至る帰依の道です。

バクティとは 神に対する無条件で無私の愛と献身を意味する。バクティ・ヨーガは、無条件で無私の神への愛と献身に心を傾ける体系的な方法です。

この道では、人は自分自身を個人的な神に委ねる。 バクティ・ヨーガは アヌグラハ(神の恩寵)、二元論(「自己」と「神」の区別)、そして神への完全な帰依(イーシュヴァラ・プラニダーナ)などの幾つかの特徴を持っている。

『バーガヴァタ・プラーナ(7.5./23-24)』では、「ヨーガの9つの主要な帰依の形」(ナラヴィダー・バクティ/Navadha Bhakti)について言及している。

  1. シュラヴァナ/Shravana(聴聞・聞くこと、個人的な神々の物語に耳を傾けること)
  2. キールタナ/Kirtana(敬虔な歌/神を賛美する歌を歌うこと)、
  3. スマラナ/Smarana(神の名前と姿を常に瞑想することによって、神を思い続けること)、
  4. パーダ・セーヴァナ/Pada-sevana(献身を持って無私のカルマを組み込んだ奉仕をすること)
  5. アルチャナ/Archana (神像を拝むこと)
  6. ヴァンダナ/Vandana (自分の選んだ神の像の前に敬意を払う、または「ひれ伏す」こと)
  7. ダースヤ/Dasya(自分のエゴではなく神の意志に仕えるという態度で神に仕える、または疑いのない献身)
  8. サキャ/Sakhya(神と帰依者の間に築かれた友愛と関係性)
  9. アートマ・ニヴェーダナ/Atma-nivedana(自己を神に完全に委ねること)

これら9つの修行/実践は、単独で行うことも 、一緒に行うこともできる。 これらの修行/実践はそれぞれ、修行者の異なる内面的性質に訴えかける。 特定のバーヴァ(感覚)を生み出す。

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https://en.wikipedia.org/wiki/Hanuman

バクティ・ヨーガは愛と献身のヨーガと言われます。無条件かつ無私の愛と献身を通じて神へ帰依し、悟りを求めます。例えば、インドの叙事詩ラーマーヤナに登場するハヌマーンも代表的なバクティ・ヨーギンとされます。これはインド文化の中でどんな人でも日常生活で実践し易いヨーガの流派とされています。特別な宗派に属すことを強制せず、日々自宅で神棚の神像に拝むこと、神社へ赴きお供物を捧げること、マントラを唱えること(読経)、神について思い起こすことで心を前向きで献身的な方向に向けることなどが含まれます。これらはバクティ・ヨーガの代表的な文献である『バーガヴァタ・プラーナ(7.5./23-24)』にヨーガの9つの主要な帰依の形(ナラヴィダー・バクティ)として記載されています。

バクティ・ヨーガは自分の信仰する宗教の道とも言えるかもしれません。これはインドヒンドゥー教文化圏以外でも、仏教などそれぞれの文化圏に応じた形で実践することができます。

カルマ・ヨーガ/KARMA YOGA

カルマ・ヨーガは行為の道です。これはニシュカーマ・カルマ/Nishkama Karma(無私無欲の行為)、正しい態度、義務という原則に基づいている。結果を期待することなく義務を果たすことを強調する。

その根本的な前提は、ニシュカーマ・カルマが最終的に喜びと幸福につながるということである。 カルマ・ヨーガでは、人が行動を起こすときの心の枠組みが重要である。 カルマ・ヨーガは、見返りを期待することなく、義務感を持ってカルマを行うことを強調します。 また可能な限り最善の方法で、巧みに行為(カルマ)を行うべきであると提唱している(Karmasu Kaushalam)。

従って、カルマ・ヨーガは次のような特質を強調する。

義務としてのカルマ、行動における巧みさ、すなわち最善の努力と効率と無私の行為。

カルマ・ヨーガの文脈では、『バガヴァッド・ギーター』が最も重要なテキストである。

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https://karmayoga.ca/wp-content/uploads/2023/03/the-gita.jpg

カルマ・ヨーガは行為のヨーガと言われます。カルマ・ヨーガでは、結果を期待しない無私無欲の態度で、与えられた義務を果たすことが強調されます。この巧みな行為のことをニシュカーマ・カルマといいます。現代では仕事や勉強においても、結果を追い求める/もしくは追い求められるような生活や価値観になっていないでしょうか?結果ではなく、そのプロセスを大切にし、自分の義務を果たすような労働への取り組みがカルマ・ヨーガのコンセプトとなります。

この分野の最も重要なテキストはインドの叙事詩である『バガヴァッド・ギーター』とされます。

ちなみに『バガヴァッド・ギーター』には上記ジュニャーナ・ヨーガ、バクティ・ヨーガ、カルマ・ヨーガの全てのコンセプトについての記述が含まれます。

パータンジャラ・ヨーガ/PATANJALA YOGA

パータンジャラ・ヨーガは、一般的に「ラージャ・ヨーガ」と呼ばれています。

カイヴァリヤを達成するために、精神活動/心作用をコントロールする道である(チッタ・ヴルッティ・ニローダ)。

パータンジャラ・ヨーガは、その名の通り、マハーリシ・パタンジャリによって広められたもので、心を養う/成長させる体系的なプロセスである。

パータンジャラ・ヨーガやラージャ・ヨーガは、人生は心の変調(心作用)が引き起こす苦痛と苦悩に満ちていると考えます。

パタンジャリによると、苦しみを取り除き、永続的な至福を得るには心作用をコントロールすることが不可欠である。

パータンジャラ・ヨーガは、クリヤー・ヨーガアシュターンガ・ヨーガを重視し、同時に マイトリー、カルナー、ムディター、ウペークシャーの正しい心理的態度を取り入れている。

パータンジャラ・ヨーガによれば、解脱(カイヴァリヤ)は、道徳的、心理-身体的、精神的訓練からなるアシュターンガ・ヨーガを手段として達成することができる。 アシュターンガ・ヨーガはヤマ、ニヤマ、アーサナ、プラーナーヤーマ、プラティヤーハーラ、ダーラナー、ディヤーナ、サマーディで構成されている。

アシュターンガ・ヨーガでは、サーマディは最終ステップであり、目的、すなわち心のコントロールへ導く最後のステップです。

ここでは、ヤマとニヤマは道徳的な訓練、アーサナ、プラーナーヤーマ、プラティヤーハーラは心理-身体的な訓練に、そしてダーラナー、ディヤーナ、サマーディは精神性そのものの訓練である。 これら8つの肢則はすべて心の変調(心作用)を上手く抑制するために不可欠であり、それが解脱へとつながります。

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パタンジャリのヨーガ・スートラは別名ラージャ・ヨーガと呼ばれます。ラージャは王という意味合いをもちます。この系統では「心」の活動をコントロールすることにより目標到達を目指します。パータンジャラ・ヨーガの代表的な実習体系には、クリヤー・ヨーガ、アシュターンガ・ヨーガ、またはチッタ・プラサーダナがあげられます。

この中でもアシュターンガ・ヨーガは現在最も広く認知されるヨーガの実習体系であり、道徳的な訓練であるヤマとニヤマ、姿勢に関するアーサナ、呼吸に関するプラーナーヤーマ、感覚器官に関するプラティヤーハーラ、そして心に直接関連するダーラナー、ディヤーナ、サマーディの8階梯で構成されています。クリヤー・ヨーガはニヤマの5つの構成要素のうち、タパス、スヴァーディヤーヤ、イーシュヴァラ・プラニダーナという3つの組み合わせを意味します。アシュターンガ・ヨーガを初級者向けと位置付ける場合、クリヤー・ヨーガは中級者向けと認識されています。

またチッタ・プラサーダナは仏教における四無量心のことであり、(他者の)喜びに対して友愛/慈しみの態度(マイトリー)を、苦痛や苦悩に対して悲/哀れみの態度(カルナー)を、徳に対して喜びの態度(ムディター)を、不徳に対して平静を保つ態度(ウペークシャ)を自分自身の中に育むことを意味します。

このような考え方の態度/姿勢も含め、体系的で包括的なヨーガ実習により、心の動揺を制御することで、カイヴァリヤ/解脱というヨーガの目標を目指します。その過程において心身の健康が高まり、生活の質(QOL)の向上が期待されます。

おわりに

インドの多種多様なヨーガの流派/系統の中でも今回はジュニャーナ・ヨーガ(知性の道)、バクティ・ヨーガ(献身の道)、カルマ・ヨーガ(行為の道)、パータンジャラ・ヨーガ(心のコントロールの道)の4つの流派を見ていきました。

ジュニャーナ・ヨーガ、バクティ・ヨーガ、カルマ・ヨーガの3つについては『バガヴァッド・ギーター』にその詳細が記載されています。これらのヨーガは、それぞれ異なる性格や傾向を持つ人々に適しているとされ、ジュニャーナ・ヨーガは知性的な人、バクティ・ヨーガは情緒豊かな人、カルマ・ヨーガは行動的な人に適すると言われます。また同時に個々の人間の中で知性、感情、行動などの異なる側面をバランス良く発展させることを目指しています。

パタンジャリのヨーガ・スートラのアシュターンガ・ヨーガは、現在ヨーガ実習の枠組みとして最も重要です。ここに示される八階梯についてはまたの機会に詳しくみていきましょう。

次回後半ではハタ・ヨーガ、バウッダ・ヨーガ、ジャイナ・ヨーガ、クンダリニー・ヨーガ、マントラ・ヨーガについて確認していきましょう。

理解度チェック(YCB試験対応)

  • 『バガヴァッド・ギーター』で示されるヨーガの道はどれか。(According to Bhagwadgita, types of Yoga are)
  • A.ジュニャーナ、バクティ、カルマ (Jnana , Bhakti  and Karma)
  • B.サーンキャ、ラージャ、カルマ(Sankhya, Raj and Karma)
  • C.ハタ、マントラ、ラヤ (Hatha, Mantra and Laya)
  • D.上記のどれでもない (None of the above)
  • プラスターナ・トライーには『ウパニシャッド』『ブラフマ・スートラ』『__________』が含まれる。Upnishad , Brahmasutra and ……..text are comes under the prasthantrayi?
  • A. バガヴァッド・ギーター (Geeta)
  • B. ラーマーヤナ(Ramayana)
  • C. ハタ・プラディーピカー (Hatha Pradipika)
  • D. 上記のどれでもない (None of the above)
  • バクティ・ヨーガは何の実践により達成されるか。Realization in Bhakti Yoga is accomplished  through______
  • A. 行動/行為 (Action)
  • B. 知識 (Knowledge)
  • C. 献身 (Devotion)
  • D. 上記のいずれでもない(None of the above)
  • カルマ・ヨーガ実践者が実践すべきなのはどれか。
  • A. カーミャ・カルマ  (Kamyakarma)
  • B. ニシュカーマ・カルマ  (Nishkakarma)
  • C. バクティ・マルガ  (Bhaktimarg)
  • D. ジュニャーナ・マルガ   (Jnanamarga)
  • ラージャ・ヨーガの別名は次のどれか。What is the other name of Raj Yoga?
  • A. ハタ・ヨーガ (Hath Yoga)
  • B. パタンジャリ・ヨーガ (Patanjali Yoga)
  • C.タントラ・ヨーガ (Tantra Yoga)
  • D.ラヤ・ヨーガ (Lay Yoga)
  • マハーリシ・パタンジャリが示すチッタ・プラサーダナの要素はどれか。According to Maharshi  Patanjali principle of chittprasadanm is 
  • A. マイトリー(Maitree)
  • B. カルナー (Karuna)
  • C. ムディター(Mudita)
  • D. 上記全てを含む (All of the above)

4択問題はいかがだったでしょうか?今後もできるだけ設問もつけていけるようにできればと思います。

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