第14回. WHO-CC ヨーガ・ガイドライン 1.6 ヨーガに関する伝統的なテキスト(5)

WHO-CC ヨーガ・ガイドライン

はじめに

みなさん、こんにちは。5月から日本に一時帰国し、穂高養生園でのワークショップ、博士課程進学へ向けての奨学金申請などをしておりました。今月は6月、まもなく国際ヨーガ・デー(IDY)となりますが皆さんはいかがお過ごしでしょうか?ちなみに今年2024年のIDYテーマは「Yoga For Self and Society」ですね。インド首相三期目に就任されたモーディー首相のIDY当日のスピーチが気になるところです。

さて、前回より期間が空いてしまいましたがWHOヨーガ・ガイドライン解説シリーズ第14弾となります。前回に引き続きヨーガに関する伝統的なテキストを扱います。

第1章 概要

  • 1.1 ヨーガ入門
  • 1.2 ヨーガの定義
  • 1.3 ヨーガの歴史と発展
  • 1.4 ヨーガの特徴
  • 1.5 伝統的なヨーガの流派/系統
  • 1.6 ヨーガに関する伝統的なテキスト(5)
  • 1.7 文化的影響
  • 1.8 ヨーガの健康効果
  • 1.9 ヨーガに関する誤解と事実

全体の目次は第1回に載っていますので、こちらからご参照ください。

1.6 ヨーガに関する伝統的なテキストとして、前回までにハタ・ヨーガの主要文献について取り扱いましたが、ここからはこの部分の最後となるI. バガヴァッド・ギーター、J. ウパニシャッド、K. ヨーガ・ウパニシャッド、L. ブラフマ・スートラを扱います。

『バガヴァッド・ギーター』、『ウパニシャッド』、『ブラフマー・スートラ』はヒンドゥー教の三大経典であり、「プラスターナ・トラヤー」と呼ばれます。これらはヴェーダーンタ哲学の基盤となるものであり、インド思想的な部分となります。

この項ではI. バガヴァッド・ギーターについて触れていきます。この辺りは一旦深入りすると抜け出せなくなりますので、こちらではあえてさらりと触れていきたいと思います。また最後に『バガヴァッド・ギーター』に出てくるヨーガの定義とともに、日常生活への取り入れ方をちょっと探っていきたいと思います。

I. バガヴァッド・ギーター

『バガヴァッド・ギーター』は大叙事詩『マハーバーラタ』の一部である。インドのハリヤーナー州クルクシェートラの戦場が舞台となり、クリシュナとアルジュナの対話形式をとる。クリシュナはアルジュナの疑問、ジレンマ、問いに答えながら、さまざまなヨーガ思想について考察し、戦場における戦士としての責務を説く。『バガヴァッド・ギーター』では、カルマ・ヨーガ、バクティ・ヨーガ、ジュニャーナ・ヨーガという3種類のヨーガについて考察されている。

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『バガヴァッド・ギーター』はインドの二大叙事詩の一つである『マハーバーラタ』の一部で、クリシュナがアルジュナに説く教えを通じて、カルマ・ヨーガ(行為のヨーガ)、ジュニャーナ・ヨーガ(知識のヨーガ)、バクティ・ヨーガ(献身のヨーガ)といったヨーガの3つの側面を説明しています。

ちなみに二大叙事詩とはヴァールミーキの『ラーマーヤナ』とヴィヤーサの『マハーバーラタ』です。

ここからは『バガヴァッド・ギーター』全18章の各章ごとの概要となります。WHOCCのヨーガ・ガイドラインには章の名前は書いてありませんが、各章の名前に「ヨーガ」とつくことも一つのポイントとして挙げられます。インドの方なら誰でも知っている物語ですが、実際に『バガヴァッド・ギーター』を読んだことのない場合は以下の概要は少し理解が難しいと思います。そんな場合は一旦さらりと流して、最後に解説で入れているヨーガの定義をまずは押さえておきましょう。

『バガヴァッド・ギーター』には700の詩があり、18の章に分かれている。これらの章の要約は以下の通りである:

1章 アルジュナ・ヴィシャーダ・ヨーガ(47節)

アルジュナはクリシュナに、カウラヴァとパーンダヴァの両軍の間に馬車を移動させるよう要請する。アルジュナは、カウラヴァの敵軍に自分の親しい親戚、教師、友人たちがいるのを見て、勇気を失い、戦わないことを決意する。

2章 サーンキャ・ヨーガ(72節)

アルジュナはクリシュナに助けを求め、クリシュナに身を委ねる。クリシュナは、一時的な物質的肉体と永遠の自己の魂との根本的な違いを説明する。肉体は殺されても、永遠の自己は不滅であると。彼はアルジュナに、戦士として戦を通じてダルマの道を守らなければならないと訴える。

3章 カルマ・ヨーガ(43節)

アルジュナは、ジュニャーナ/知識が行動よりも重要であるならば、なぜ戦わなければならないのかと問う。クリシュナは、より大きな善のために職務を遂行する、しかし結果に執着しないことが適切な行動であると強調する。

4章 ジュニャーナ・カルマ・サンニャーサ・ヨーガ(42節)

クリシュナは、自分が多くの生を生き、常に敬虔な者の保護と罪深い者の滅亡のためにヨーガを教えてきたことを明かす。クリシュナは、ギーターの遠い歴史、定期的にこの世に降りてくる目的と意義について語る。そして、グル(師)の側にいることの重要性を強調する。

5章 カルマ・サンニャーサ・ヨーガ(29節)

アルジュナはクリシュナに、行動を放棄するのと行動するのとではどちらがよいかと問う。クリシュナは、どちらの方法も有益であると答える。クリシュナは、すべての行為を行うが、その果実を放棄することが、平和、無執着、忍耐、精神性への気づき、至福への鍵であると説明する。

6章 ディヤーナ・ヨーガ/アートマ・サンヤマ・ヨーガ(47節)

クリシュナは、アシュターンガ・ヨーガ、メディテーションのための正しい姿勢、サマーディへ達成するプロセスについて説明する。

7章 ジュニャーナ・ヴィジュニャーナ・ヨーガ(30節)

クリシュナは知識の道(ジュニャーナ・ヨーガ)を教える。彼は至高の真理、至高の原因、物質的なものや霊的なものすべてを支える力について語る。

8章 アクシャラ・ブラフマ・ヨーガ(28節)

クリシュナは、ブラフマン、アディヤートマ、カルマ、アートマン、アディブータ、アディダイヴァを定義し、死の間際にどのようにクリシュナを思念し、彼の至高の住処に到達できるかを説いている。

9章 ラージャ・ヴィッディヤ・ヨーガ(34節)

クリシュナは、あらゆる状況で彼を思念する方法として、「すべての存在は私の中にある」と説明する。クリシュナは、自分への純粋な献身を思い起こすことで、人は精神的な領域にあるクリシュナのもとに帰るのだと説明する。

10章 ヴィブーティ・ヨーガ(42節)

クリシュナは、自分が物質界と精神的な領域の究極の源であることを説明する。アルジュナは、至高の存在であるクリシュナを、すべての原因の至高の原因であり、すべてのものの支えであり本質であると受け入れる。

11章 ヴィシュヴァルーパ・ダルシャナ・ヨーガ(55節)

11.アルジュナの求めに応じて、クリシュナは自らの「普遍的な姿」(ヴィシュヴァルーパ)を示す。それは、あらゆる方向を向き、千の太陽の輝きを放つ「存在」の姿であり、存在するすべての存在と物質を含んでいる。最後の節で、クリシュナは再びカルマ・ヨーガの道をアルジュナに説く。

12章 バクティ・ヨーガ(20節)

クリシュナは献身的な奉仕(バクティ・ヨーガ)のプロセスを説明する。クリシュナへの純粋な愛が霊的存在の最高の目的であると説明する。この至高の道に従う者は、神聖な資質を身につける。

13章 クシェートラ・クシェートラジュニャ・ヴィバーガ・ヨーガ(34節)

13. クリシュナは自然(プラクリティ)、享受者(プルシャ)、意識について説明する。彼は、肉体、魂、超魂の違いを理解する者は、この物質界からの解脱に到達すると述べています。

14章 グナ・トラヤ・ヴィバーガ・ヨーガ(27節)

クリシュナは、物質的性質の3つのモード(グナ)について説明します: サットヴァ、ラジャス、タマスです。これらの性質が何であるか、それらが私たちにどのように作用し、どのようにそれらを超越するかを説明します。クリシュナはまた、超越的な状態に到達した人物の状態についても言及する。

15章 プルショーッタム・ヨーガ(20節)

クリシュナは、象徴的な樹木(物質的存在や世界を表す)を描写し、その根は天にあり、その葉は地上にある。クリシュナは、この木は「離脱の斧」で伐採されるべきであり、そうすることで人は至高の住まいへと導かれると説明しています。

16章 ダイヴァースラ・サンパッド・ヴィバーガ・ヨーガ(24節)

クリシュナは、神性と悪魔性の人間的特質について語ります。彼は、神聖な資質を持ち、経典の権威を守って規則正しい生活を送る者は、次第に精神性の成熟に到達すると説明する。

至高の目的地に到達するためには、欲望、怒り、貪欲を捨て、善悪の区別をつけることである、これは経典に記された証拠/指針をもとに、正しい行為と間違った行為を見分け、正しく行動することである。

17章 シュラッダー・トラヤ・ヴィバーガ・ヨーガ(28節)

クリシュナは、信仰、思考、行為、食習慣について語り、これらはすべて3つのグナ(サットヴァ、ラジャス、タマス)に対応する。

18章 モークシャ・サンニャーサ・ヨーガ(78節)

最後に、クリシュナはアルジュナに、あらゆる形のダルマを捨て、ただクリシュナ神に絶対的で無条件の愛の降伏をするよう求めます。彼はこれを人生の究極の完成と表現している。

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『バガヴァッド・ギーター』に見られるヨーガの定義

『バガヴァッド・ギーター』の、全18章の中で大切な章は2章です。ここには有名なヨーガの定義が2つ述べられています。この章に含まれる有名な2つの定義を以下に記載しておきます:

  • samatvaṁ yoga uchyate ||(II-48)
  • サマットヴァム・ヨーガ・ウッチャテー
  • ヨーガは平等の境地である。

成功も失敗も平等に見ること。どんな状況にあっても常に自分らしく平常心でいられたら良いですよね。ヨーガではそこにある経験や行動の背景にある思いを大切にします。失敗を恐れずにいること、そもそも人生に失敗なんてないという価値観は、人生において自分の持つポテンシャルを最大限に引き出すことができるのではないでしょうか。

  • yogaḥ karmasu kauśhalam ||(II-50)
  • ヨーガハ カルマシュ カウシャラン
  • ヨーガは諸行為における巧妙さである。

行動の結果に執着せずに、または見返りを求めずに行う行為のことをヨーガではニシュカーマ・カルマと言います。とにかく淡々をやるべきことを遂行する。見返りが得られない不安、相手への期待に対する欲求不満などで動揺することもなくなるので、心の平穏が保たれることでしょう。

もちろん心の癖は修正に時間がかかるものですが、気づいた時には「サマットヴァム・ヨーガ・ウッチャテー、平常心、平常心」「ヨーガハ カルマシュ カウシャラン、期待しない、期待しない」とちょっと一呼吸、自分に言い聞かせてみるもの、大切なヨーガ実習です。

さて、これらの定義はYCB試験でもよく出題されますので、必ず押さえておきましょう。

理解度チェック(YCB試験対応)

  • プラスターナ・トライーには『ウパニシャッド』『ブラフマ・スートラ』『__________』が含まれる。Upnishad , Brahmasutra and ……..text are comes under the prasthantrayi?
  • A. バガヴァッド・ギーター(Geeta)
  • B. ラーマーヤナ(Ramayana)
  • C. ハタ・プラディーピカー(Hatha Pradipika)
  • D. 上記のどれでもない(None of the above )
  • 『バガヴァッド・ギーター』は何章で構成されるか。How many chapters are in Bhagwadgeeta?
  • A. 15 (15章)
  • B. 16 (16章)
  • C. 17 (17章)
  • D. 18 (18章)
  • 『バガヴァッド・ギーター』で示されるヨーガの道はどれか。According to Bhagwadgita, types of Yoga are
  • A. ジュニャーナ、バクティ、カルマ(Jnana , Bhakti  and Karma)
  • B. サーンキャ、ラージャ、カルマ(Sankhya, Raj and Karma )
  • C. ハタ、マントラ、ラヤ(Hatha, Mantra and Laya)
  • D. 上記のどれでもない (None of the above)
  • ヨーガハ _________ カウシャラン “Yogah ________Koshalam”
  • A. カルマシュ(Karmshu )
  • B. ラーガ(Raga)
  • C. ドヴェーシャ(Dwesha)
  • D. チッタ(Chitta )

おわりに

『バガヴァッド・ギーター』はヨーガとの関連で大切なポイントが出てきます。ヨーガの定義、2章のサーンキャ・ヨーガ、3種類のヨーガ(カルマ・ジュニャーナ・バクティ)、ディヤーナ・ヨーガ、ライフスタイルに関する規定、グナ理論などです。また『バガヴァッド・ギーター』を含む「プラスターナ・トラヤー」はインド思想的な部分で大変興味深い部分でもありますが、そもそも日本とは文化圏が異なることには考慮が必要となります。健全なヨーガライフにおいて、巧く付き合っていきたいですね。

さて次回はJ. ウパニシャッド、K. ヨーガ・ウパニシャッド、L. ブラフマ・スートラに続きます。

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