シンハーチャラン寺院の訪問

インドでヨーガの博士課程

はじめに

先日、ヴィシャーカパトナム近郊にあるシンハーチャラン寺院(通称:ライオンの丘の寺院)を訪れました。自然に囲まれた神聖な場所で、静謐な雰囲気とともに、伝統と信仰が息づいているこの寺院の様子を簡単にご紹介したいと思います。

https://swarajyamag.com/amp/story/insta%2Fsimhachalam-after-seshachalam-rs-242-crore-plan-approved-for-sri-varaha-lakshmi-narasimha-temple-in-vishakhapatnamより引用

シンハーチャラン寺院の概要

正式名称は シュリー・ヴァラハ・ラクシュミー・ナラシンハ寺院(Sri Varaha Lakshmi Narasimha Temple, Simhachalam)。ヴィシャーカパトナム市中心部から北へ約16km、標高約300メートルのシンハーチャラン・ヒルに位置するヒンドゥー教寺院です。

この寺院は、南インドにおけるナラシンハ信仰の中心地の一つであり、ヴィシュヌ神の2つの化身であるヴァラハ(猪)とナラシンハ(獅子)の融合した姿「ヴァラハ・ナラシンハ」が主祭神として祀られています。土曜日の午前中に行ったこともあり多くの人で賑わっていました。

  • 所在地:アーンドラ・プラデーシュ州 ヴィシャーカパトナム市、Simhachalam Hill(標高約300m)
  • 主祭神:ヴァラハ・ナラシンハ(+ラクシュミー女神)
  • 宗派:ヴァイシュナヴァ派(ヴィシュヌ信仰)
  • 建築様式:オリッサ様式(カリンガ建築)とドラヴィダ様式の融合
  • 創建:13世紀、東ガンガ朝のナルシンハ・デーヴァ1世による再建

寺院の特徴

こちらの寺院の主神である「ヴァラハ・ナラシンハ」は、ヴィシュヌ神のアヴァターラ(化身)の一つであり、イノシシの頭、人間の胴体、ライオンの尾を持つという、非常に珍しい三位一体的な姿をしています。なお、一般的なナラシンハ神はライオンの頭と人間の胴体を持つ姿で知られていますが、ここシムハーチャラムの像はそれとは異なり、ヴァラハ(猪)とナラシンハ(獅子)の両方の特徴を融合させた特異な神像となっています。

また、寺院の名前に「ラクシュミー」が含まれているのは、ヴィシュヌ神の妻である女神ラクシュミーへの信仰がこの寺院にも反映されているためです。

神像は、一年中サンダルウッド(白檀)ペーストで厚く覆われており、その姿はリンガ(シヴァの象徴)のように見えることから、初期にはシヴァ神と誤認されたこともあったそうです。年に一度、アクシャヤ・トリティヤ(4~5月)の日にだけ白檀が取り除かれ、「チャンダノーサヴァ(Sandalwood Festival)」として、神像の本来の姿が一般に公開されます。しかしその時間はわずか12時間だけだそうです。

白檀(サンダルウッド、チャンダン)は、神の怒りを鎮め、心身を平安へ導く冷却の象徴とされ、寺院の中でも極めて重要な役割を担っています。寺院全体がサンダルウッドの香りで包まれていました。

※ちなみに写真は禁止されており参拝前に携帯やカメラを預ける必要があります。

3つの参拝のオプション

ちなみに、シンハーチャラン寺院のダルシャナ(参拝)には3つのオプションが用意されていました。

1つ目は無料の一般参拝、2つ目は100ルピーの優先ダルシャナ、そして3つ目は300ルピーの特別ダルシャナです。まるで“ファストパス”のような仕組みが寺院にもあるのですね。係の方によると、無料の参拝列は5〜6時間待ち、100ルピーでは3〜4時間、300ルピーでは15分程度で神像までたどり着けるとのこと。

この日は時間の都合もあり、300ルピーの特別ダルシャナを選択しました。実際には15分とはいきませんでしたが、それでも20〜30分ほどで神像の前に到着することができ、とてもスムーズでした。

信仰と伝説

寺院の建立

  • 伝説によれば、ヴィシュヌ神は信者プラフラーダが父・ヒラニヤカシプに殺されそうになったとき、ナラシンハの姿で出現し彼を救いました。その後、プラフラーダはこの神を祀るためにこの地に寺院を建立し、「シンハーチャラム(ライオンの丘)」と名付けられたとされます。

 寺院の再建と習慣の起源

  • 寺院は一時期荒廃しましたが、ある時代にプルーラヴァ王が偶像を再発見し再建したとされます。夢の中で「神像をアクシャヤ・トリティヤの日を除き、1年中白檀で覆いなさい」と神からの啓示を受け、その習慣が始まったそうです。

聖者ラーマヌージャの訪問

  • そして11世紀にはヴァイシュナヴァ派の聖者ラーマヌージャがこの寺院を訪れました。当初、神像はシヴァ神と考えられていましたが、彼の働きによりヴィシュヌ信仰へと転換されました。しかし、白檀を取り除こうとした際に偶像から血が流れ出したため、再び塗布されたという伝説が残り、今に至るまでその伝統が守られています。

建築美と構造

寺院は5層のゴープラム(塔門)と3つのプラカラム(回廊)を持ち、要塞のような重厚な外観をしています。本殿の上部にそびえるヴィマーナ(神殿塔)は、東インドのカリンガ様式を基にしており、精緻な彫刻が施されています。

白檀(サンダルウッド)の意味と用途

ちなみに白檀(サンダルウッド)ですがインドでは様々な意味を持っています。

  • 宗教的象徴:怒りを鎮め、精神を清らかに保つ冷却と浄化の象徴、煩悩の浄化など
  • アーユルヴェーダ的効能:皮膚疾患の緩和、精神安定、ストレス軽減などに使われる
  • 日常的・儀式的使用:ティラカ(額印)や供物、火葬時の清めに用いられることが多い
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おわりに

標高300メートルの丘の上、サンダルウッドの香りに包まれた神秘の寺院シムハーチャラン。ナラシンハ神の激しさ、ラクシュミーの慈愛、そしてヴァラハの大地的な力の融合を象徴するこの場所では、信仰・自然・文化・伝説が、静謐さと力強さをもって交差しています。ヴィシャーカパトナムを訪れる機会があれば、ぜひ「ライオンの丘の寺院」で、インドの深い精神世界に触れてみるのはいかがでしょうか。

参考:https://en.wikipedia.org/wiki/Varaha_Lakshmi_Narasimha_temple,_Simhachalam

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