ベトナムでのヨーガ推進活動/バクニン編

ベトナムの街歩き

はじめに

今回2024年2月-3月にかけての約1ヶ月ベトナム・ハノイ近郊のバクニン省にある尼僧院Chùa Nghĩa Lậpで行ったヨーガ推進活動での取り組みについて紹介出来ればと思います。

バクニン省の簡単な紹介

ベトナム・バクニン省は北ベトナム・ハノイ近郊にあるベトナムで最も小さな省で、紅河デルタ地帯に位置します。バクニン省にはこの紅河文明に関連する長い歴史があり多くのパゴダやテンプル、歴史的建造物などがみられます。また伝統工芸も盛んな地域で、青銅鋳造、宝石作り、陶器作り、伝統家具作りなどが現在も行われています。

バクニン地区で有名なDo Temple
ベトナム伝統家具作り

私の滞在していた尼僧院Chùa Nghĩa Lập周辺は長閑な田園風景が広がり、3月初めには一斉に田植えが始まっていました。また伝統的な高級家具の生産と販売で有名な地域で、街全体が高級家具店で溢れています。一方で近代的な電子産業なども開発されてきており、工業団地も目立っています。 バクニン省はベトナム北部で最も工業団地の数が多い3省のひとつとのこと。多様な側面を持っている地域だと感じました。

バクニン省でよく見る田園風景
国道沿いも路地にも家具屋さんがずらりと並びます
家具作りから販売まで
このような高級家具を取り扱う家具屋さんが立ち並びます
ベトナム国内や中国からの買い付けも多いとのこと
Yen Phong Viglacera https://vietbiz.jp/bacninh-vn/より引用

対象者の健康問題

今回主に一緒にヨーガ実習を行ったのは20代〜80代の女性の仏教コミュニティの皆さんです。

稲作を始め農業に携わる方も多く基本的に足腰が強く、高齢の方でも体力のある方が多いことが印象的でした。また基本的に早起きで、朝は早い方は4時、または5時には起きてジョギング、サイクリング、ダンス、健康体操などをされており、運動習慣がある方が多かったです。

こちらは発表会ですが毎日朝5時と夕方に練習しているとのこと
ベトナム舞踊からズンバ的なものまでダンスも多様です

ただ街全体としては以前と比較して身体活動が減っていたり、油や炭水化物の多い食生活にて生活習慣病を抱える方が多くなっているとのこと。ヨーガ実習への期待としてはメタボ、糖尿病、高血圧または低血圧の改善、不眠の改善、または田植えによる腰痛の改善、将来への不安(経済面など)に対する心の安定などが主に上げられました。

指導のもと田植えに挑戦 北ベトナムは二期作 手植えです
足腰への負担を実感しました

心の問題に関しては、一見明るく見えるものの実は向精神薬や睡眠薬などを内服されているという方も見えました。ここは尼僧院のため毎日庵主や尼僧と話をすることがメンタル・ケアになっているということを感じました。お悩み相談は家族のこと、仕事のことなどを初め多岐に渡り、中には「悪夢を見たので心配になって」と相談に来る方も見えました。

ヨーガ実習

こちらの尼僧院では連日夜の19:30から45分間の読経があり、読経に続く形で毎日夜の20:30から1時間の練習を行いました。

また実習は連載中のWHOヨーガ・ガイドブック、インド政府Ayush省YCBシラバス、Common Yoga Protocolに基づいて行なっています。ここからは一つずつ簡単に紹介して行きたいと思います。

シュッディ・クリヤー/浄化法

クリヤー/浄化法の一つであるカパーラバーティ/副鼻腔や呼吸器官の浄化法はもちろん、ジャラ・ネーティー/水を使った鼻腔の浄化法やボーマン・ダウディ/上部消化管の洗浄にも興味関心が高く、リクエストによりこれらの実習も行いました。喘息、胃酸過多、糖尿病、便秘の改善への期待によるものだったと思います。

ネーティー(鼻腔の浄化法)

ベトナム全体として急速に産業化が進んでおり、郊外による喘息問題が増加しています。私の友人の尼僧の方も喘息傾向ということもありジャラ・ネーティーの実習を行いました。最近は「鼻うがい」として知られるネーティーについて「聞いたことはあるけども、やったことはない。」「専用のポットは買ってみたけども、やったことはない。」という方も多いようでした。このような簡単な実習の最初の導入は非常に大切な意味を持つと感じました。

ダウティ(上部消化管の浄化)

ダウティ実習もリクエストにより実習を行いました。普段ヨーガを全くされたことがない初めての方でしたが勇敢に取り組まれ、初回から嘔吐反射により塩水をしっかりと排出することができていました。その後は迷走神経反射により疲労感を感じて見えましたが、一時的な休息により回復。普段から胃酸過多による胃部不快感のある方でしたが、その日はスッキリと過ごされていました。

ボーマン・ダウティのデモンストレーション中 
ご本人は恥ずかしいとのことで私の写真で、笑
そこにあるもので代用しながら実習します

カパーラバーティ(呼吸器の浄化法)

Common YIC Protocol実習に必ず含まれるため、最近は初回からカパーラバーティ実習も取り入れるようにしています。特に喘息などの疾患も増えているベトナムでも重要な実習かと思います。多くの方が初回からコツを掴み実践できていました。

スークシュマ・ヴィヤーヤーマ/関節運動や近代的ストレッチ体操

基本の関節体操から始めて行きました。またバクニン省の方々も肩凝り、腰痛を持つ方は多く、肩周り、足首・足腰の関節運動も行って行きました。

スーリヤナマスカーラ(バリエーション含む)や各種有酸素運動

皆さん身体能力が高く、80代の女性でもスーリヤ・ナマスカーラを元気にこなしている姿に圧巻でした。そこで追加の関節運動やダイナミックストレッチなども取り入れていきました。

ヨーガ・アーサナ

プロトコール内のアーサナ/ポーズは難なくこなせる方が多かったです。また田植えの時期の腰痛対策を行いたいという要望が多く、腰痛へのセルフケアとなるような実習も多く紹介して行きました。

80代の方も難なく90度の脚上げをされていました

各種呼吸法(ヨーガ的呼吸法の準備)やプラーナーヤーマ/ヨーガ的呼吸法

呼吸法も基本的にはナーディーショーダナとブラーマリー・プラーナーヤーマの実習を行いました。偏頭痛を持っている方もみえましたが、特に耳を覆ってのブラーマリーに効果を感じでみえるようでした。また湿度が90%を超えることもあるハノイでは、ウッジャーイー・プラーナーヤーマも効果的に感じました。

ナーディー・ショーダナ・プラーナーヤーマ
ブラーマリー・プラーナーヤーマ

ディヤーナ/メディテーション/瞑想

今回ヨーガ・クラスに参加された方々は、尼僧院での夜19:30から行われる45分間の読経が習慣となっている方がほとんどでした。瞑想経験のある方は少なかったですが、”静かに坐る”ことにすぐに慣れ、鼻先へ意識を向けること、その状態に留まってみえたことが印象的でした。このことは学生さんのクラスでも同様でその姿はこちらが驚くほどでした。

ディヤーナ

フィードバック

ベトナムの方々は勤勉さがその特徴として挙げられることが多いですが、ヨーガに対しても同様で、寒い日や忙しい日もクラスへ参加され、真面目に1つ1つの実習に取組み、前回学んだことを覚えている方も多かったです。フィードバックとしては、心身の軽さ/リラックス、睡眠の改善、足首の痛みが軽減したなどが挙がりました。また「ヨーガを始めてからは、ヨーガをしないと寝れなくなった!」という意見もあり、すぐに習慣化されている姿が印象的でした。

キッズ向けヨーガ・クラス

尼僧院では希望する児童に対して学校の授業後や週末に英語、数学、理科などの教科を無償で指導しています。私も英語の指導を担当させていただきましたが、ここで学んでいる学生を対象にヨーガ実習を行いました。ヨーガ実習は数回の開催でしたが、意欲的に取り組んでいる姿が印象的でした。

ベトナムでは英語教育の大切さが認識され始めているところで、ヨーガを英語で実習することで両方を学ぶ機会となったことは一つのメリットだったと思います。また上述したように学生さんも初回からディヤーナ/瞑想の時間に静かに坐っている姿には驚かされました。

サルヴァーンガ・プシュティ
カティ・シャクティ・ヴィカーサカ
ディヤーナを終えたところ
どこでもいつでもだれでもヨーガ 合間の時間に木のポーズ 

仏教コミュニティでのヨーガ推進活動

こちらの仏教コミュニティで生活を通して、皆さんとても親切で慈悲深く、困っている人がいれば助け合う、常に謙虚で、様々なものを皆で分け合う、そんな姿勢を目の当たりにしました。また尼僧院では連日夜の19.30から45分間読経があるのですが、連日多くの方が集まっていました。

こちらの尼僧院では、七仏通誡偈(しちぶつ つうかいげ)という仏教で釈迦以前に存在していた6人の仏と、釈迦を含む7人の仏が共通して説いた教えををまとめた偈を仏教実践の中核として実践されています。

これは非常にシンプルで、ここには1.悪いことを行わず、2.善いことを行い、3.自らの心を清らかに、4.これが仏陀の教えであるという4つの教えが説かれています。

  • 諸悪莫作(しょあくまくさ) ― もろもろの悪を作すこと莫(な)
  • 衆善奉行(しゅぜんぶぎょう) ― もろもろの善を行い
  • 自浄其意(じじょうごい) ― 自ら其の意(こころ)を浄くす
  • 是諸仏教(ぜしょぶっきょう) ― 是がもろもろの仏の教えなり
https://ja.wikipedia.org/wiki/七仏通誡偈

例えば朝の清掃活動をはじめ、行事毎に村人が集まり協力し助け合うことも善い行いの実践となります。また悪いことを行わないことは、そのような物事や人と距離をとることも含まれると言われていました。このように仏教を生活で実践されている方々を目の当たりにし、経典を学ぶだけでなく、「仏教の教えを生きること」について学ばせていただきました。

またこれらはヨーガ・スートラにおけるチッタ・プラーサーダナ/四無量心やヤマの実践に共通する部分でもあり、ヨーガをライフスタイルとして、生活/人生において実践していく大切さを再認識させていただきました。

行事があれば皆集結して協力し合います
毎日朝4時半から約2時間の清掃活動 
その後のひと時に皆で花を眺めています

チー・ブイさんのケース

ここで出会った一人のチー(お姉さん)・ブイさんという方は、尼僧院の毎日の清掃活動やその他お手伝いが必要な時に率先して作業を行なってくれています。いつも笑顔で、親切な方という印象でしたが、実はご家族関係の問題がきっかけでうつ状態となり精神薬の内服をされているとのことでした。ただうつ状態に陥ってからも尼僧院で連日庵主や尼僧の方と話し、上記七仏通誡偈の4つの教えに従い清掃活動や周囲の困っている人を助けることを実践し、読経に連日参加されることで症状は改善してきているとのことでした。決して裕福ではないのに、私にも食事を作って持ってきてくれたりと本当に親切にしていただきました。

ただチー・ブイさんも体調が優れず、不眠、頭痛、免疫低下により風邪症状を起こしやすいなどの問題を抱えており、セルフケアとしてのヨーガに前向きに取り組まれていました。実習後は心身のリラックスや睡眠状態改善などの効果も感じてみえました。

ヨーガ実習は身体の健康に加え、心を清らかに、落ち着かせるための最善の方法と思っています。このような仏教の教えとヨーガ実習の相乗効果で更なる健康と幸福へつながればと思います。

今後の方向性・可能性

今回仏教とともに生き、暮らしている方々と一緒に生活することで多くのことを学ばせていただきました。またその土地の宗教文化や環境にて必要なヨーガ実習やアプローチは異なるものの目指す目標は一緒であることも再認識したところであります。

ベトナムでもヨーガの人気は一部地域で高いようですが、健康増進やウェルネスとして地域に密着したヨーガはこれから大きな伸び代があるように思います。また仏教実践との併用は非常に効果的に感じます。次回はハノイ大学でのヨーガ指導などの話も出ていますので、ベトナムでの健康とウェルネスへのホリスティックなヨーガ実習のさらなる普及に繋げていければと思います。

タイトルとURLをコピーしました