第3回.WHOヨーガ・ガイドライン 1.1ヨーガ入門

WHOヨーガ・ガイドライン

はじめに

みなさん、サワディカー/こんにちは。バンコクの竹内です。最近はSamyan駅直結SAMYAN Mitrtownの中にあるワーキングスペースSamyan CO-OPで作業を行っています。スペースも広くて快適空間です。夕方になると近くのチュラロンコーン大学の学生さんが続々と集まってきます。ちなみにチュラロンコーン大学は4年連続タイ国内トップの名門です。また仕事目的らしき社会人も多く良い刺激をもらいながら、作業に取り組めています。 やはり周囲の環境というのは大切ですね。

さて今回はWHOヨーガ・ガイドライン解説シリーズ第3弾、今日からはとうとう本題に入ります。1章概要の項目は以下となっています。この中で本日扱うのは第1章概要1.1ヨーガ入門です。非常に大切な部分なので、一緒に丁寧に見ていきましょう。

第1章 概要

  • 1.1 ヨーガ入門
  • 1.2 ヨーガの定義
  • 1.3 ヨーガの歴史と発展
  • 1.4 ヨーガの特徴
  • 1.5 伝統的なヨーガの流派/系統
  • 1.6 ヨーガに関する伝統的なテキスト
  • 1.7 文化的影響
  • 1.8 ヨーガの健康効果
  • 1.9 ヨーガに関する誤解と事実

全体の目次は第1回に載っていますので、こちらからご参照ください。

それでは早速冒頭から読んでいきましょう。

ヨーガはインド古代に発祥する哲学とライフスタイルの体系

ヨーガは、インド古代に発祥する哲学とライフスタイルの体系であり、健康的な生活のためのアートでありサイエンスである。

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まずは冒頭の文章のこの部分です。まずはヨーガの発祥ですが、ここで改めて言うまでもなくインドです。近代史の中でヨーガがインドから諸外国へ普及していった最も象徴的な動きは1893年9月にアメリカ・シカゴで開催された万国宗教会議での、スワーミー・ヴィヴェーカーナンダ(1863-1902)による演説だとされています。

https://ja.wikipedia.org/wiki/ヴィヴェーカーナンダ
https://ja.wikipedia.org/wiki/ヴィヴェーカーナンダ

そしてヨーガはインド哲学に基づいていて、ライフスタイルに関係していると述べられています。そうです、ヨーガは単なるエクササイズではなく、インド哲学(ダルシャナ)に基づいているのです。

そしてこの哲学体系の中では、私って一体何者?人間って何?この世界って何?生きる目的/意味ってなに?人生ってなんでこんなに辛いことばっかり起こるの?この苦痛からどうやったら抜け出せるの?なんていうテーマについて探究されています。

https://en.wikipedia.org/wiki/Sadness

そしてヨーガはライフスタイルであると言っているわけですが、これは身近な生活習慣とも取れますし、同時に人生全体とも理解できます。上記にあるような疑問に対する根本原因についての考察や、解決への方向性もヨーガ哲学を含むインド哲学全体によりそれぞれ提示されているわけですが、その解決へ向かう手段がヨーガ修行/実習となります。そしてその修行/実習は、一般的に知られているアーサナ(ポーズ)やプラーナーヤーマ(呼吸法)だけでなく、日々の生活習慣、および人生の生き方全体に関係します。

どうでしょう、なんだか思ったより壮大ではないですか?

ヨーガは微細なサイエンスに基づいている

ヨーガは極めて微細なサイエンスに基づく精神的な鍛錬であり、心と体の調和をもたらすことに焦点が置かれている。

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ここで「微細なサイエンス」という言葉があります。英語ではSubtle Scienceと表現されています。近年では現代科学との融合によりヨーガの効果が科学的な指標によって証明されてきています。特に生活習慣病や心身症への効果が多く証明されています。

しかし、実際ヨーガの効果というものは科学による証明が難しいという特徴があります。まずヨーガは個々の経験および感覚を重視した技法です。本人が自覚(アウェアネス)や集中を伴って実習に取り組んでいるか、感覚を感じ経験しているかなどは外部からの測定が難しい部分でもあります。そしてヨーガの対象は、生身の生きている人間であり、さらにメインテーマは心です。心の微細な変化は、限定された研究期間の後に起こることもありますし、ふとしたキッカケにて突然訪れることもあります。また言葉で表現できない場合や、感じた変化を自分の中だけに留めておきたいといった場合もあるはずです。

またハタ・ヨーガのサイエンスはナーディー、チャクラ、クンダリニーといったインド文化独特の身体観に基づいています。これらは長年に渡ってインドのヨーガ修行者達により蓄積されてきた知識であり、写本として書き残されています。

https://en.m.wikipedia.org/wiki/File:19th_century_manuscript_copy,_15th_century_Hatha_yoga_pradipika,_Schoyen_Collection_Norway.jpg

インド国内にはこれらの写本をインド全土から集め批判校正版として出版している研究所もあり、このような研究所の労力の結晶により、現代に生きる私たちもこれらを読むことができます。興味深いことにこれらハタ・ヨーガの伝統文献には疾患の発生論(心身相関理論)、呼吸と心の関係、病気を防ぐ方法なども明確に記載されています。ヨーガ実習を継続されている方にとっては、知っておくことで毎日の実習がさらに愉しく豊かになること間違いなしです。

ヨーガのホリスティックなアプローチ

ヨーガのホリスティックなアプローチは確立されており、すべての人生に調和をもたらす。

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ヨーガ実習は闇雲にどこか一部分だけを切り取って実習するものでもありません。ヨーガの特徴は、そのホリスティックなアプローチです。エクササイズだけ行うのではなく、瞑想だけ行うのではなく、食生活だけ気を付けるのではなく、ヨーガを全体として捉えていく必要があります。

「ヨーガはアートである」という言葉が冒頭に出てきましたが、例えば1本の花は花びら、がく、めしべ、おしべ、茎、葉で構成されています。それぞれバラバラでも存在しますが、それらが集まって初めて花となり、そこには部分では存在しなかった「美しさ」が生まれます。ヨーガも全体をホリスティックに実習することで、その効果が一人一人の中に美しく光輝くことになります。

ヨーガはあらゆる人の、あらゆる状況に柔軟に対応します

ヨーガは、人々が直面している健康問題に対処するための予防法であり、治療法でもある。 また、様々な状況におけるリハビリテーションにも役立ちます。

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ヨーガは全ての人の、それぞれの状況に対し柔軟に対応することが可能です。

ヨーガはどんな年齢層の方も対象となり、それぞれのニーズに合わせた技法を選択することができます。その代表例としてWHOヨーガ・ガイドラインと同時に、子供、青年期、妊娠適齢期の女性、高齢者様々な年齢層の方ごとにプロトコールがリリースされています。

WHOによる年齢層別のヨーガ・プロトコールのリンクはこちら

年齢以外にも例えば肥満を解消したいという方に対しては、その目的に沿った実習を組み合わせることが可能です。また高血圧、糖尿病、高脂血症など生活習慣病や心身症のマネージメントに対して各種研究でもその効果が証明されてきています。

また疾患治療としても肯定的な効果が出るケースもあります。しかし病状によっては西洋医学との併用が必要ですし、安全性については医師および専門家のアドバイスが個別に必要となります。このガインドラインでも治療としてのヨーガの限界について触れられています。

基本的にヨーガは予防医学であり、調子が悪くなる前に自分自身でメンテナンスするセルフ・メンテナンス、セルフ・セラピー的な分野を得意とします。そしてさらにその延長線で、天井のない健康増進へと向かっていくのです。パタパタと大空へ〜。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Flying_Bird_to_his_Peak.jpg

ヨーガは人生の質/QOLを大切にします

ヨーガは、人間の生存と存在の質的側面を扱う最も古いサイエンスのひとつである。

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さて、「ヨーガは人間の生存の存在の質的側面を扱う」としています。量的でなくて、質的と述べています。よって健康な身体を手に入れて人生1日でも長く生きよう!ということではなく、自分に与えられた人生/環境の中で、より豊かな質の高い人生を送ろう、自分が納得できる人生を歩んでいこう、そういったことがテーマとなっています。身体の健康とはそのほんの一部であり、健康を足掛かりとして、より上の幸福感やウェルネスを高めていくことが重要となります。

億万長者が必ずしも幸せでないという例えはよくありますが、肉体が健康であっても必ずしも幸福感を感じているとは限りません。逆に言えば、肉体的には健康でない状況であっても、幸せで質の高い人生を送ることができる可能性は大いにあるのです。

https://en.wikipedia.org/wiki/Wellness_%28alternative_medicine%29

ユネスコ無形文化遺産への登録

ヨーガの実践は、まさに文明の夜明けとともに始まったと考えられている。 ユネスコはヨーガを人類の無形文化遺産(1)として認定している。国連総会(UNGA)もまた、ヨーガを健康とウェルネスへのホリスティックなアプローチを提供するものとして認めている。 ヨーガはまた、あらゆる生活に調和をもたらし、健康増進、疾病予防、多くの生活習慣病の管理に役立つことでも知られている(2)。

(1)Yoga – Intangible Cultural Heritage of Humanity. Accessed at http://www.unesco.org/culture/ich/en/RL/Yoga-01163 on 14 September 2018

(2)Ministry of Ayush, Government of India. 2016. Common Yoga Protocol: International Day of Yoga. New Delhi:. Accessed at http://mea.gov.in/images/pdf/common-Yoga-protocol.pdf on 14 September 2018

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上記にある通り、ヨーガは2016年にユネスコの無形文化遺産として登録されています。

Wikiのユネスコ無形文化遺産の一覧はこちら 

また国際ヨーガ・デーの制定に関しても、2014年9月のインドモーディー首相の国連総会での提言からわずか3ヶ月というスピードで可決を経ています。そして今はWHOとの協働ということで、ヨーガの新たな世界展開が巨象が目覚めたかの如く進んでいます。

2014年国連総会でのインド首相モーディー氏によるスピーチ

ここでこのヨーガ入門の項にも含まれる、有名なモーディー首相の国連総会でのスピーチを見ていきましょう。

2014年9月27日、第69回国連総会で演説したインドのシュリー・ナーレーンドラ・モーディー首相は、国際社会に対し、「国際ヨーガの日」を制定するよう国際社会に提言しました。

彼は言った: 「ヨーガは、古代インドの伝統のかけがえのない贈り物です。 ヨーガは、心と身体、思考と行動、抑制と充足、人間と自然の調和、そして健康とウェルネスへのホリスティックなアプローチを体現しています。 ヨーガは単なるエクササイズではなく、自分自身、世界、自然との一体感を発見するためのものです。 ライフスタイルを変え、意識を高めることで、気候変動の問題にも対処することができるでしょう。

国際ヨーガデーの制定に向けて努力していきましょう。

(3) Ministry of Ayush, Government of India. 2016. Common Yoga Protocol: International Day of Yoga, page1-3. New Delhi: Government of India. Accessed at http://mea.gov.in/images/pdf/common-Yoga-protocol.pdf on 14 September 2018.

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さてみなさん、この文章を読んでどんな印象を受けますか?

正直なところ、意味が分かるような、分からないような印象を受ける方も多いのではないでしょうか?私自身、この文章が腑に落ちるようになってきたのはここ数年もしくは現在進行形といえます。ただ事あるごとにこの文章に戻ることで、ヨーガの枠組みが自分の中で少しずつクリアになっていくような気がします。

ここから読み取れることを箇条書きにしていきたいと思います。

  • ヨーガは単なるエクササイズではない。
  • ヨーガは心と身体に関係している。
  • 日々のどのように考え、どのように行動するのかということに関係している。
  • 節度を持って暮らしつつ、かつ充足感に満たされた生き方を目指している。
  • 自然界の一部としての自分を自覚し、周囲の環境や自然と調和しながら生きることに関係している。
  • 一人一人の意識の変容およびライフスタイルの変容により、環境問題の改善につながる。
  • これらを達成するには、ヨーガをホリスティックに実習する必要がある。

また冒頭でモーディー首相は明確に、「ヨーガはインド伝統のかけがえのない贈りものである」と述べています。外国人としてヨーガを活用させていただいていることに感謝の心を忘れないようにと常々思います。

ヨーガの包括する人間の側面

ヨーガは、人間の身体的、心理的、社会的な側面に関わりながら、叡智、倫理観、より質の高い人間関係、そして各個人に存在するスピリチュアルな現実をすべての人に実感させる。 現代では、人々は身体的な健康、心理的な健康、幸福を維持するためにヨーガを実践しています。 それに伴い、ヨーガの教育機関では、ヨーガ指導者やセラピストを養成するための様々なトレーニング・プログラムが開発されています。

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さて、モーディー首相のスピーチでも見られたように、ヨーガの包括する範囲は幅広いということが認識できたと思います。上記の文章をまとめると、ヨーガは、人間の身体、心理/感情/知性、社会、および精神性への探究/スピリチュアルと言われるような側面全てを含みます。このことはインド哲学の代表的な文献であるウパニシャッドを始め、各種ヨーガ伝統文献に明確に記載されています。

そして現在インド政府Ayush省YCB(ヨーガ教育委員会)によりヨーガ検定試験が実施されており、毎日続々とYCBインストラクターが増えています。このYCBインストラクーはそれぞれのレベルに応じて、こうしたインドの伝統文献の内容を把握しておく必要があります。一見難しそうにも見えますが、ヨーガが扱うテーマは全て人間です。つまり”自分”についてです。ヨーガの哲学の勉強を通じて、自分についての様々な気付きや発見があり、これは知れば知るほど面白いこと間違いなしです。

ヨーガの語源と目的

さてヨーガ入門の最後にヨーガの語源と目的について簡潔に述べられています。

ヨーガの伝統文献によれば、ヨーガの実践は、個人の意識を普遍的な意識と結合させることである。 現代の科学者によれば、宇宙に存在するすべてのものは、同じ量子の基体の現れである。 この存在の一体性を経験する者がヨーガ修行者の中にいると言われ、ヨーギーと呼ばれる。

ヨーギーは、ムクティ、ニルヴァーナ、カイヴァリヤ、モークシャと呼ばれる究極の自由の境地に到達する。ヨーガの目的は自己実現であり、「解脱の境地」に至ることであらゆる苦痛と苦悩を克服することである。

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初めての方にとっては「個人の意識と普遍的な意識の結合」なんて聞いて、「なんか怪しい」「やっぱり私には向いてない」と感じる方も見えるかも知れません。しかしここで諦めてしまうのは、時期尚早です。この部分はインドのヒンドゥー教思想に基づいていますので、追々インド宗教文化およびヴェーダーンタ哲学などを学習することで知識として理解することができます。

ここではとりあえず「あらゆる苦痛と苦悩を克服すること」という部分押さえておきましょう。これはある意味パワーワードです。あらゆる苦痛というのは、体の痛み、心の痛み、社会的痛み、精神的(精神性/霊的)痛み、全てが該当します。体の不調、日々のストレス、人間関係、人生で直面するあらゆる苦痛全ての克服を目指します。これは魔術やミラクルではなく、あくまでも自助努力によるものです。

そしてヨーガの最終ゴールは、他のインド哲学の目指すゴールと同じ「解脱の境地」であるわけですが、現代の一般社会に生きる私たちも少なくともこの過程の中で、様々な健康的効果を得ることができるわけですね。ヨーガに感謝、感謝です。

今日のまとめ

さて今回も長くなってしまいましたが、WHOヨーガ・ガイドラインの1章1.ヨーガ入門について見ていきました。みなさんの中で、ヨーガのイメージが少し膨らんだ方が見えたら幸いです。次回はヨーガの定義を見ていきましょう。それでは本日も良き1日を!

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