はじめに
みなさん、シンチャオ/こんにちは。本日もベトナムから竹内です。
今回はWHOヨーガ・ガイドライン解説シリーズ第9弾、伝統的なヨーガの流派/系統の項の後半となります。先週に引き続き主要な流派/系譜を紹介するとともに、それらの最終的な目的/目標について今一度確認していきたいと思います。
第1章 概要
- 1.1 ヨーガ入門
- 1.2 ヨーガの定義
- 1.3 ヨーガの歴史と発展
- 1.4 ヨーガの特徴
- 1.5 伝統的なヨーガの流派/系統
- 1.6 ヨーガに関する伝統的なテキスト
- 1.7 文化的影響
- 1.8 ヨーガの健康効果
- 1.9 ヨーガに関する誤解と事実
ハタ・ヨーガ/HATHA YOGA
ハタ・ヨーガの「ハタ」という言葉は、「ハ」と「タ」という2つの音節の組み合わせです。 「ハ」はマインドまたは心的エネルギーを表し、「タ」は生命エネルギー(プラーナ)を表します。 従って、ハタ・ヨーガとは、心的エネルギーと生命エネルギーの結合(ヨーガ)を意味する。
『ゲーランダ・サンヒター』によると、ハタ・ヨーガは肉体、生命エネルギー(プラーナ)、心のそれぞれに調和をもたらす。
それは肉体から始まり、プラーナと心の調和したバランスを創り出し、サマーディ(自己実現)へと導き、最後にモークシャ(至福に満ちた、途切れることのない平穏と、変化することのない未分化の意識)へと導く。
ハタ・ヨーガは、プラーナをコントロールすることで心をコントロールできると認識している。 そのために シャット・カルマ、アーサナ、プラーナーヤーマ、ムドラー、バンダ、ディヤーナ、サマーディといった様々な修行法や技法が、伝統的なハタ・ヨーガ文献の中で説明されている。 ハタ・ヨーガの権威ある文献としては『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』、『ゲーランダ・サンヒター』、『シヴァ・サンヒター』、『ハタ・ラトナーヴァリー』などが挙げられる。
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ハタ・ヨーガの「ハ」は太陽を、「タ」は月を象徴し、これらの力を統合することで調和が生まれるとされます。太陽は活動的なエネルギーを表し、月は静的なエネルギーを表します。
「ハ」と「タ」は、他にも相反する要素と関連付けされ、「ハ」陽を意味するピンガラ・ナーディー、心的エネルギー(マインド)、交感神経など、「タ」は陰を意味するイダー・ナーディー、生命エネルギー(プラーナ)、副交感神経などがその代表です。※1
ハタ・ヨーガの実践者は、これらの相反する要素を調和させ、心と身体を均衡させることを通じて最終目標を目指します。※2
ハタ・ヨーガの技法は身体的なポーズをとるアーサナだけではなく、心身の浄化法であるシャット・クリヤー、呼吸をコントロールするプラーナーヤーマ、生命エネルギーの方向づけと関連するバンダやムドラー、そして瞑想のディヤーナやサマーディといった多種多様な実習で構成されています。ハタ・ヨーガ文献は、これらの様々な身体技法の効果を肉体のみではなく、心や精神性との関連についても言及しています。ヨーガの身体技法を通じて、モークシャ/ラージャ・ヨーガ/サマーディ/解脱を目指す道がハタ・ヨーガなのです。
ハタ・ヨーガには多くの伝統文献がありますが、その中で最も重要なものは『ハタ・プラディーピカー』と『ゲーランダ・サンヒター』です。※3
- ※1「生命エネルギー」「心的エネルギー」については諸説あり。
- ※2 ハタは強制的という意味で理解されることもあります。
- ※3『ハタ・プラディーピカー』は『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』とも呼ばれます。
ジャイナ・ヨーガ/JAINA YOGA
ジャイナ・ヨーガは、物質(身体)と魂(意識)が個別に存在すると信じている。
ジャイナ教は、魂(意識)の個別的な性質と、自分の決断に対する個人の責任を強く支持し、自己信頼と個人の努力だけが自己の解脱に責任があると強く主張する。
ジャイナ教哲学は、存在とその存在の理論的根拠、宇宙とその構成要素の性質、束縛の性質と解脱を達成する手段を説明しようと試みている。宇宙の創造者、所有者、保存者、破壊者としての至高の神の存在は信じない。
ジャイナ教のヨーガは、有名な5つのマハーヴァラタ(大誓願)を提唱し、その実践は人々が解脱に達する足掛かりとなる。
ジャイナ教の哲学では、非暴力(アヒンサー)は基本原理である。非暴力(アヒンサー)とは、あらゆる生物を傷つけないこと、または傷つけたいと望まないことを意味する。 自己または他者に対するいかなる形の暴力(ヒンサー)も、魂がモークシャ(生と死のサイクルからの解脱)に到達する能力を阻害する。 ジャイナ・ヨーガは、アヒンサーの概念を人間だけでなく、すべての動物、植物、微生物、そして生命や生命の可能性を持つすべての存在に拡大している。
正しい信仰(サンミャク・ダルシャナ)、正しい知識(サンミャク・ジュニャーナ)、正しい行い(サンミャク・チャーリタ)、 カヨーットサルガ(瞑想の一種)、そしてプレークシャ瞑想が、ジャイナ教における解脱への道を構成する。
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ヨーガが発祥したインドでは、最も広く信仰されるヒンドゥー教の外にも、イスラム教、キリスト教、シク教、ジャイナ教、仏教など様々な宗教が信仰されています。そしてこの中でも特にジャイナ教と仏教はヨーガの流派/系統として認識されています。
ジャイナ教はマハーヴィーラ(ヴァルダマーナ)を開祖とし、アヒンサー(非暴力)の禁戒を厳守するなど徹底した苦行・禁欲主義をもって知られるインドの宗教です。ジャイナ教は精神(魂/意識)と物質(身体)の二元論に立脚します。
ジャイナ教の基本的心得として正しい信仰(サンミャク・ダルシャナ)、正しい知識(サンミャク・ジュニャーナ)、正しい行い(サンミャク・チャーリタ)が示されており、これは三つの宝を意味する「トリ・ラトナ」と呼ばれています。このうちの正しい行いであるサンミャク・チャーリタは、戒律に従った生活を送ることを意味し、その戒律の最も重要なものとして5つの大請願が(マハーヴァラタ)が示されています。これらはアヒンサー(非暴力)、サティヤ(真実語)、アステーヤ(不盗)、ブラフマチャリヤ(不淫/禁欲)、アパリグラハ(不貪/無所有)の5つです。
ジャイナ教にとっての非暴力は身体的なものだけではなく、言語的なもの、心理的なものまで含まれます。また厳格な菜食主義、虫を殺さないためのマスクの着用、宗派によっては衣類を纏わないなども修行に含まれることがあります。この五戒の原則はパタンジャリのアシュターンガ・ヨーガでは第一階梯であるヤマとして示されています。これからヨーガを始める全ての人に対する心得とも言えるでしょう。またジャイナ教ではカヨートサルガやプレークシャ瞑想といった瞑想法が広く実習されています。
バウダ・ヨーガ/BAUDDHA YOGA
バウダ・ヨーガは仏陀の教えに基づいています。 その教えは悟りを得るための有名な「四諦」と「八正道」を説いている。
四諦とは(1) 苦の真理、(2)苦の原因の真理、(3)苦の終わりの真理、(4)苦しみの終わりに至る道の真理である。
バウッダ・ヨーガの八正道は、中道とも呼ばれ、苦痛や苦悩をなくし、精神的自由を得るための道である。
バウッダ・ヨーガは次の8つの修行からなる。
- (1)正しい見解
- (2)正しい決意
- (3)正しい言葉
- (4)正しい行い
- (5)正しい生活
- (6)正しい努力
- (7)正しい心構え
- (8)正しい三昧(瞑想的吸収または合一)
八正道は、自らを抑制し、規律を守り、瞑想を実践することによって、人は世俗の欲望やカルマの蓄積への渇望を止め、それによって苦痛や苦悩、生死の輪廻を終わらせることができると教えている。 バウダ・ヨーガは、悟りとニルヴァーナ(解脱)の道へと導く様々な瞑想法を提唱する。 これらのテクニックは、マインドフルネス、集中力、静けさ、超俗的な力を身につけるのに役立ちます。
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上記のジャイナ教と同様に、仏教もヨーガの枠組みの重要な要素となっています。仏教は釈迦(仏陀/ゴータマ・シッダールタ)を開祖とする宗教です。仏教の多くの伝統的宗派においては、三宝への帰依が求められ、これらはブッダ(仏)、ダルマ(法)、サンガ(僧伽)の三つです。
ブッダ(仏)は真理に目覚めた者を意味します。ダルマ(法)はブッダの教えを指し、ここに四諦や八正道などが含まれます。またサンガ(僧伽)は出家し戒律を守るブッダの弟子達のコミュニティを意味します。
四諦は悟りに至る道筋を説明するために、真理とそれを解決する方法論を苦集滅道の4つにまとめたものです。これらはそれぞれ (1)苦諦: 苦の真理、(2)集諦:苦の原因の真理、(3)滅諦:苦の終わりの真理、(4)道諦:苦しみの終わりに至る道の真理です。
そしてこの道諦/苦しみを終わらせるための道が八正道であり、以下に示す8つの実践で構成されます。
- 正見(しょうけん/sammā‑diṭṭhi/samyag-dṛṣṭi):真理を正しく知ること
- 正思惟(しょうしゆい/sammā-saṅkappa/ samyak-saṃkalpa):正しい判断
- 正語(しょうご/sammā-vācā/ samyag-vāc):嘘、無駄話、陰口、誹謗中傷、粗暴な言葉などから離れる
- 正業(しょうごう/sammā-kammanta/samyak-karmānta):仏教の五戒の遵守
- 正命(しょうみょう/sammā-ājīva/samyag-ājīva):正しい生計
- 正精進(しょうしょうじん/sammā-vāyāma/samyag-vyāyāma):四正勤の実践に努める
- 正念(しょうねん/sammā-sati/samyak-smṛti):四念処(身、受、心、法)に注意を向けて、常に今現在の内外の状況に気づいたマインドフルネスの状態でいること
- 正定(しょうじょう/sammā-samādhi/ samyak-samādhi):正しい三昧に完成すること
これらは中道の具体的内容ともされ、これらの実践によりあらゆる苦痛や苦悩からの解放を目指します。
また仏教には様々な瞑想法があります。その中でも”注意深く観る”ことを意味するヴィパッサナー瞑想法は、世界中でもマインドフルネス・メディテーションとして注目され、集中力、静けさ、ストレスマネージメントなどの目的としても汎用されています。
ラヤ・ヨーガ/LAYA YOGA
ラヤ・ヨーガとは、ヨーガ、すなわちサマーディがラヤによって達成されるヨーガの形である。「ラヤ」とは「溶解」「没入」を意味する。
ラヤとは、段階的に宇宙の原理に没入/吸収される深い集中のことであり、至高の力の意識(自覚)の霊的側面にまで至る。
ラヤは、五つのタットヴァ、マインド、インドリヤ(感覚)を完璧に抑制し、心の揺らぎは止まります。心、身体、プラーナは完全に抑制されるでしょう。
『ヨーガ・タラーヴァリー』でシャンカラーチャリヤは「サダーシヴァは20,000種類のラヤについて語ったが、最も重要なのはナーダ・アヌサンダーナである。」と述べている。心を集中させる方法は、それぞれの気質や性格に合わせて様々である。ナータ・ヨーギーによれば、一つの方法(ナーダへのラヤ)が全ての人に適している。
ヴィシュヌ派によるとラヤ・ヨーガとは、チッタ(感覚意識)がラヤの対象と一体化すること、つまり深い集中に没入することである。この状態に至る最も効果的な方法は多くあるが、神像へのディヤーナ/瞑想(深い集中)は歩いている時、立っている時、食事をしている時、休んでいる時にも実践することができる。これがラヤ・ヨーガである。
ラヤは、マインドとプラーナ、瞑想者と瞑想の対象、顕在しないシャクティと顕在するシャクティという二つの極性を吸収することを目的とする。エネルギーがどのようにムーラーダーラからサハスラーラへと進化するかについての理論、クンダリニーの覚醒も、ラヤ・ヨーガで同様に扱われている。それはウパニシャッド的なクリヤー・ヨーガと言えるかもしれない。ラヤ・ヨーガの経験は、死と再生のような深遠なもので、統合された存在の完全な解消と、新たな次元への再生があります。
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「ラヤ」とは「溶解」「没入」を意味し、二極(二つの相異なるもの)の完全な溶解、融合、一つになることを意味します。ラヤ・ヨーガの瞑想対象は多種多様です。しかしその中でも、内なる音に没入するナーダ・アヌサンダーナはシヴァ派や、ナータ派(ハタ・ヨーガ)において最も重要とされてます。
ラヤ・ヨーガではマインドや感覚器官を完全にコントロールし、深い集中を通じてモークシャ/悟りを追求します。
ちなみにハタ・ヨーガやヨーガ・ウパニシャッドなどの伝統文献において、ラヤ・ヨーガはマハー・ヨーガ(偉大なるヨーガ)の1つに位置づけられています。マハー・ヨーガはハタ・ヨーガ、ラヤ・ヨーガ、マントラ・ヨーガ、ラージャ・ヨーガの4つで構成されます。
クンダリニー・ヨーガ/KUNDALINI YOGA
クンダリニー・ヨーガは、誰もがスピリチュアルなエネルギーと意識(クンダリニー・シャクティ、「蛇の力」とも呼ばれる)を持っていると提唱する哲学である。 しかしこのエネルギーはムーラーダーラ・チャクラに眠っているため、目覚めさせる必要がある。
このエネルギーは目覚めると、上方に向かい、スシュムナー・ナーディーを通り、チャクラを活性化し、人の潜在能力と意識を何倍にも高める。 クンダリニー・ヨーガは、ハタ・ヨーガと密接に関連している。
クンダリニー・ヨーガは、ナーディー(エネルギーチャンネル)、チャクラ(エネルギーセンター、クンダリニー・シャクティ)といったヨーガ的な生理学用語に基づいています。ヨーガ哲学によると、イダー、ピンガラー、スシュムナーという3つの主要なナーディーがあります。 また背骨に沿って、その基底部から7つのチャクラが存在する。
これらのチャクラの名前は、下から順に、ムーラーダーラ・チャクラ、スヴァーディシュターナ・チャクラ、マニプーラ・チャクラ、アナーハタ・チャクラ、ヴィシュッディ・チャクラ、アージュニャー・チャクラ、サハスラーラ・チャクラである。 チャクラは、エネルギーがチャクラを通って人体に流れ込むために重要である。
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クンダリニー・ヨーガは、人の骨盤底辺り(ムーラーダーラ・チャクラ)にあるクンダリニーと呼ばれるエネルギーを覚醒させることを目的としています。これにより使われていない潜在能力や意識を高めることを目指します。
クンダリニー・ヨーガ、ラヤ・ヨーガ、ハタ・ヨーガなどには、インド的身体観に基づいた微細なサイエンスであるナーディー、チャクラ、クンダリニーといったコンセプトが含まれます。ナーディーは生命エネルギー(プラーナ)の通る脈管とされ、人体には7万2000本、文献によっては35万本あると言われています。これはレイキなどとも共通するコンセプトです。(具体的な本数は諸説あり)
この無数にあるナーディーの中で、イダー、ピンガラー、スシュムナーという3つが最も重要とされます。また人体にはエネルギーセンターであるチャクラがあるとされています。各チャクラは人体の生理-心理的機能と関連づけられます。
7つの主要なチャクラを以下に示します。
- ムーラーダーラ・チャクラ
- スヴァーディシュターナ・チャクラ
- マニプーラ・チャクラ
- アナハタ・チャクラ
- ヴィシュッディ・チャクラ
- アージュニャー・チャクラ
- サハスラーラ・チャクラ
※右の図では下から上に順番に1-7
クンダリニー・ヨーガの目的は、ムーラーダーラ・チャクラに眠っているクンダリニー・シャクティを目覚めさせ、上昇させ、残りのチャクラをひとつずつ貫くことである。 最終的に、このシャクティは人生の究極の目標である精神的自由/解脱を象徴するサハスラーラ・チャクラに到達する。
クンダリニー・シャクティを覚醒する全過程において、アーサナのような特定のヨーガのポーズ、呼吸法(プラーナーヤーマ)、ムドラーなどの技法を行う必要がある。
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クンダリニー・ヨーガの目的は、クンダリニーの覚醒により、最終的に究極の自由/解放に到達することです。伝統的には、この目的を達成するためにハタ・ヨーガの技法と共通する、アーサナ、プラーナーヤーマ、ムドラーなどの技法を行います。しかし、実践の過程で人体の生理的機能や心理的機能を含む包括的な健康の向上が期待されます。
マントラ・ヨーガ/MANTRA YOGA
マントラ・ヨーガは、マントラを使って自己を目覚めさせ 、ヨーガ修行の瞑想的な側面を深める。
マントラ・ヨーガは、ジャパ・ヨーガとも呼ばれています。 ジャパとはサンスクリット語で、マントラを繰り返すという意味です。
マントラとは、音、音節、音素、単語、またはフレーズのことです。 その繰り返しは、心を音、その持続時間、反復回数に心をむけ、瞑想中の心の集中に役立つ。
マントラ・ヨーガは、マントラを使って内なる神性に近づくための正当なサイエンスです。
マントラを唱えることで、ポジティブな波動が生まれ、マントラを唱える人と聞く人の両方に恩恵をもたらします。
マントラ・ヨーガは、興奮(ラジャス)と慣性(タマス)を中和するのに役立ち、実習者が純粋な意識状態に移行できるようにする。
心を落ち着かせ、集中力を高め、呼吸をコントロールするのに役立つ。 精神的な健康も高めます。
マントラには3つの練習方法がある: ヴァイカーリ・ジャパ/Vaikhari(大きな声で唱える)、ウパンシュ・ジャパ/Upanshu(小さな声で唱える)、マナス・ジャパ/Manas Japa (自分自身に静かに唱える/無音)
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マントラ/MantraのManは心、Traは守ることを意味します。マントラは心を守る技法とも言えます。マントラを繰り返し唱えることをジャパと言います。具体的なジャパの実習では、インドの場合「Oṃ Namaḥ Śivāya」、「Om Namo Bhagavate Vāsudevāya」などといったマントラを繰り返し唱えます。これにより、心をマントラの音や意味などに向け、ネガティブな考え、思い、感情などから心を守ります。
インドでは特にヨーガ実習などの前後でマントラを唱えることで、実習へ向けての心の準備や、実習後の心をよりポジティブに導きます。マントラの効果については科学的な研究も実施され、その効果も実証されてきています。マントラの詠唱/ジャパ/読経といった行法はインドのヒンドゥー教圏に限らず様々な宗教文化にみられ、その心理的効果が注目されています。
ヨーガ哲学のトリ・グナ(三つの性質)のコンセプトには、サットヴァ(純粋性)、ラジャス(活動性)、タマス(貪性)という3つの性質が登場します。マントラ・ヨーガをはじめ、ヨーガ実習を通じて心の過活動や興奮、惰性を克服し、純粋で安定した心を目指します。
マントラの唱え方には、3つの方法があるとされ、大きな声で唱える方法(ヴァイカーリ)、囁くような小さな声で唱える方法(ウパンシュ)、心の中だけで唱える方法(マナス)があります。
全ての流派の目的/目標
以上のことから、どの流派/系統のヨーガにもそれぞれのイデオロギーがあり、それぞれ異なるアプローチを採用していることがわかる。 しかし、すべての流派の目的地は同じである。すなわち、モークシャを得ること、至福を得ること、個人の意識と超越意識との結合である。日常生活では、一般的にあらゆる流派/系統のヨーガ的実践が組み合わされて用いられている。
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前回と今回にかけてインド伝統の多種多様な流派/系統を見ていきました。これらはジュニャーナ・ヨーガ、バクティ・ヨーガ、カルマ・ヨーガ、パータンジャラ・ヨーガ、ハタ・ヨーガ、バウッダ・ヨーガ、ジャイナ・ヨーガ、クンダリニー・ヨーガ、マントラ・ヨーガです。
各流派/系統によりその修行法/実践方法はさまざまで、最終目標もモークシャ/カイヴァリヤ/ニルヴァーナ/サマーディなど異なる言葉で表現されることがあります。
しかし、大切なことはこれら全てのの流派において目的/目標は同じということです。また自身のヨーガ実践において、何か一つを選択しなくてはならないといったルールはなく、自分の日常生活に即したヨーガを組み合わせて実践することができます。
おわりに
前回と今回で取り上げた伝統的なヨーガの流派や系統は、インド文化に馴染みのない方にとっては難解であったかもしれません。またここで「ヨーガを実践するにはヒンドゥー教を信仰しなくてはならない。」と言っている訳ではありません。ヨーガは特定の宗教ではなく、より普遍的なものです。それゆえ各流派のコンセプトは、インドだけでなく、世界中の諸外国の宗教文化においても共通点が多く見られます。また私たち一人一人の体の構造や機能、心の構造や機能も同じです。それは解剖生理学や心理学を通じても理解できます。
インドの伝統や宗教文化を通じてヨーガの全体像を理解することで、世界中でヨーガを実践する方の視野が広がり、それぞれの環境で最適化したホリスティックなヨーガの実践につながればと思います。
さて、次回からはヨーガに関する伝統的なテキストについてみていきましょう。
理解度チェック(YCB試験対応)
- ハタ・ヨーガの「ハ」の意味はなんですか?In the term “Hathayoga” ‘H’ refers to?
- A. 太陽(Sun)
- B. ピンガラ・ナーディー(Pingala Nadi)
- C. 心的エネルギー(Manasic prana)
- D. 上記すべてを含む (All of the above)
- ジャイナ教に含まれるコンセプトは次のどれか。 _____ concept belong to jain philosophy
- A. カヨーット・サルガ (Kayotsarg)
- B. プレークシャ・ディヤーナ (Preksha Dhyan)
- C. スヤード・ヴァーダ (Syadvaad)
- D. 上記すべてを含む (All of the above)
- 仏教哲学に関連するのは次のどれか。According to Budha Philosophy _______
- A. ブラフマー・サッティヤ・ジャガット・ミッティヤ (Brahma satya jagat mithya)
- B. サマーディは究極の真理 (Samadhi is ultimate truth)
- C. サールヴァン・ドゥッカン (Sarvam Dukham)
- D. 上記いずれでもない (None of the above)
- 『ハタ・ラトナーヴァリー』に記述されるマハー・ヨーガはどれか。According to Hathratnawali, mahayoga is
- A. マントラ、ハタ、ラージャ、ラヤ・ヨーガ (Mantra,Hatha,Raja,Laya yoga)
- B. マントラ、ハタ、バクティ、カルマ・ヨーガ (Mantra,Hatha,Bhakti,Karma yoga)
- C. ムドラー、プラーナーヤーマ、アーサナ (Mudra, Pranayama,Asana)
- D. 上記いずれでもない (None of the above)
- ナーダ・アヌサンダーナの効果は主にどの状態に現れるか。The effect of Nadanusandhan would be on _____ condition at most.
- A. 心理的な (Mentally)
- B. 精神的な (Spiritual)
- C. AとBの両方 (A and B both)
- D. 上記のどれでもない (None of the above)
- 別名「ハートチャクラ」と呼ばれるチャクラはどれか。Which of the following Chakra is otherwise called ‘Heart chakra’?
- A. マニプーラ (Manipura)
- B. ヴィシュッディ (Visuddhi)
- C. アナーハタ (Anahata)
- D. アージュニャー (Ajna)
- 賛歌やマントラを低いトーンで詠唱することは_______として知られている 。Chanting of hymns or mantras in low tone is known as_______
- A. Vachik(ヴァーチカ/ヴァイカーリ)
- B. Mansik(マナシカ/マナス)
- C. Upanshu(ウパンシュ)
- D. None of above(上記のどれでも無い)