アーンドラ大学 哲学宗教学科でのカンファレンス

インドでヨーガの博士課程

はじめに

みなさん、こんにちわ。皆さん1月はいかがお過ごしでしょうか。こちらは先週末に開催されたアーンドラ大学でのカンファレンスで少し忙しく過ごしていました。本日はこのカンファレンスの様子を少しご紹介できればと思います。

アーンドラ大学 哲学宗教学科でのカンファレンス

アーンドラ大学 哲学宗教学科において、第17回社会哲学国際会議(17th International Congress of Social Philosophy)および第11回ヨーガと精神科学国際会議(11th International Congress of Yoga & Spiritual Science)が、1月24日から26日にかけて開催されました。

カンファレンスのテーマは「文明間の葛藤解決のための哲学とヨーガ」(Philosophy and Yoga for Civilizational Conflict Resolution)です。

カンファレンス準備

主催は哲学・宗教学科ですが、私が所属しているヨーガ学科も協賛しています。哲学科では昨年から入念に準備を進めており、先週は私も会場の準備や物品の設置作業に参加しました。哲学科には多くのベトナムの僧侶や尼僧が在籍しており、今回の準備作業は主にインドチームとベトナムチームが協力して進められました。その中で生まれるさまざまな人間模様が非常に興味深かったです。

例えば、会場の飾り付け一つをとっても、インド式とベトナム式で嗜好や方法が異なるため、意見がぶつかる場面も少なくありません。しかし、これらのぶつかり合いは決してネガティブなものではありませんでした。むしろ、率直に意見を交換し合う中で、次第にお互いの考えを受容し、理解を深めていく過程が印象的でした。また、ベトナムの方々は、どの方もはっきりとした意見を持っており、それをしっかり伝える姿勢が見られます。これが国民性としての特徴なのかなと思うところでもあります。

紺色のベルベッドを好むインド組と、ラメ入りのベージュを好むベトナム組
両方の組み合わせの案も出ましたが、ベトナム組は納得せず(笑)
最終的にラメ入りのベージュが採用。ベトナム式に波状のひだを入れるなど、とっても素敵になりました。

開会式

開会式は、B.R. アンベードカル博士(Bhimrao Ramji Ambedkar)にちなんで名付けられたDr. B.R. アンベードカル・アセンブリーホールで行われました。広い会場はほぼ満席となり、その光景を見た学長が「I am so happy today」と非常に喜んでみえる様子が印象的でした。

近年、アーンドラ大学でも哲学・宗教学科は縮小傾向にあると言われていますが、このカンファレンスは、哲学や宗教分野の継承と復興を目的の一つとして掲げているとのことです。そのため、このイベントが開催されたことは、哲学・宗教学科にとって非常に大きな意味を持っている様子でした。

会場はほぼ満員となりました
アーンドラプラデーシュ州で著名なヨーガ教育機関の一つであるYoga Consciousness Trust創設者のPujyasri Yogacharya Raparthi Rama Raoji
Yoga Consciousness TrustのSwamijiも来賓されました

今回、クティクッパラ・スーリヤ・ラオ博士(Dr. Kutikuppala Surya Rao)が主賓として参加され、終始論文発表のモデレーターを務めてくださいました。ラオ博士は、2008年にインド政府からパドマ・シュリー賞を授与されています。この賞は、インドで4番目に高い民間人向けの栄誉です。インドでは称号が呼称として頻繁に使われるようで、会場では多くの方が博士を「パドマシュリー・サー(サー/Sirは“先生”という意味)」と呼んでいました。

ラオ博士は、アーンドラ医科大学でMBBS(医学士)を修了後、コロンボ大学で家庭医学のMD(医学博士)を取得。その後、アーンドラ大学でPh.D.(博士号)を取得されています。医療現場での実践に加え、HIV/AIDSに関する臨床研究にも深く携わられています。

今回のプレゼンテーションでは、医師としての立場から、WHOの健康観の変遷、Ayush省や統合医療、さらにはこれらにインド哲学を統合するという、非常に興味深い内容をお話しいただきました。ラオ博士のユーモアを交えたプレゼンはとても分かり易く惹きつけられるものがありました。

ユーモアを交えながらのプレゼンはとても分かりやすかったです
非常にオープンな方で皆さんから慕われているという印象でした

インドのカンファレンス

今回のカンファレンスでは、世界における問題提起や、葛藤の解消、平和の実現に向けて哲学やヨーガがどのように貢献できるかについて、熱い議論が繰り広げられました。

これまでヨーガ分野におけるインド哲学の講演を何度も聴講してきましたが、哲学・宗教分野の教授陣による講演をカンファレンスの場で聴く機会は初めてでした。そして、インドにおける本格的な哲学や宗教の議論がいかに難解であるかを痛感させられました。ヨーガ分野での知識では太刀打ちできないと感じる場面も多々あり、思わず苦笑いするほどの奥深さを味わったように思います。

特に印象的だったのは、コンシャスネス(意識)の定義、ガンジー思想、インド的価値観、ヨーガの定義、倫理観、宗教観といったテーマについて、白熱した議論が展開されていたことです。議論は時に大声で怒鳴り合うほど白熱し、まるで築地市場の競りを彷彿とさせるような迫力がありました。

また、サンスクリット語のシュローカを唱え、その意味や解釈を提示し、それを現代の生活や日常の思考にどのように応用できるかを美しく説明する姿には感動を覚えました。「さすが本家インド!」という感嘆させられる場面も多々あったように思います。内容がすべて理解できたわけではありませんが、こうした哲学がインドの人々の日常の思考や生き方に深く根付いていることを目の当たりにしました。

繰り返し言われていたのが、「哲学は応用しないと意味がない」「知識(Knowledge)と叡智(Wisdom)は異なる」「哲学的知識(普遍的な原則や真理)は時間とは無関係である」という点でした。これらの言葉は議論を通じて何度も強調され、哲学を実践に結びつける重要性が浮き彫りにされていました。そしてその実践を助けるのがヨーガであると言われていました。

さらに印象に残ったのは次の問いです。「哲学は何のためにあるのか?」「問題を解決するためにあるのだ。」しかしその問題解決の目的についても「その問題解決は誰のため?」「自分のため?子供のため?それだけで良いの?」という問いが投げかけられていました。こうした提起は思考に影響を与える貴重な経験となったように思います。

インドのカンファレンスでの論文発表

今回のカンファレンスでは、私も自身の研究論文を発表する機会をいただきました。昨年10月にPh.D.コースに参加した初日、担当教授からカンファレンスの話を伺い、それに向けて準備を進めてきました。主なテーマは「日本の働く女性が、どのようにヨーガを現代の社会生活に応用しているか」というものでした。今回のカンファレンステーマに合わせて、ヤマやニヤマといった視点についても考察していきました。しかし、会場の熱量には圧倒されるばかりで、初日の聴講を通じて気付いたのは、日本での論文発表とは全く異なる雰囲気やアプローチが存在するということでした。

聴講する中で、自分の発表内容をその場で修正し、日本の仏教分野との共通点や日本文化の紹介を加筆しました。また、国際ヨーガデーやモーディー首相が世界に与えた影響についても言及し、最終的にはスピリチュアリティに向かうという共通認識を強調する工夫を加えました。これにより、少しでも日本人としての視点を華やかに添えられたのではないかと感じています。

さらに、多くの論文発表を聴講したことで、インドにおける研究論文の書き方やプレゼン方法について多くを学ぶことができました。これらは、今後の研究活動に向けて非常に貴重な経験となったと思います。

見守ってくださっている温かな目が有難いです
発表も無事おわりほっとしました

余談ですが、私のカンファレンスでの登壇は当初26日を予定していたのですが、急遽25日14時に変更になったと、なんと2時間前に知らされました。慌ててパソコンを取りに寮まで往復したのですが、戻ると今度は15時30分の枠に変更されたとのこと。そして、最終的には17時30分に登壇することとなりました。このような「インド的」なスケジュールの中での発表でしたが(笑)、それもまた一つの経験として楽しむことができました。

閉会式

閉会式では、再びゲスト教授陣による白熱した議論が繰り広げられました。その議論は、ある意味で時間を超越するようなインド流の進行で、予定を約2時間延長して行われました。

学長による締めのスピーチは非常にシンプルでありながら心に響くものでした。「哲学的思考を通じて、一人一人がより幸せになり、それが世界平和につながる。」というメッセージが述べられると、会場では拍手喝采となりました。

最後に、参加者への修了証(サティフィケーション)の授与が行われ、閉会式が無事に終了しました。これをもって、準備を含めた怒涛の1週間に及ぶカンファレンスが幕を閉じました。

閉会式でも白熱した議論が始まりました
サティフィケーションと記念の仏像画をいただきました

余談ですが、準備作業に参加している中で、論文発表者リストから自分の名前が漏れていることを発見しました。ただ、事前に気付くことができたため、エラーを回避することができました。準備段階から真面目に関わっていた自分を少し褒めてあげたい気持ちです(笑)。こうした環境自体が、ある種「インド的」なものを感じさせる気がします。

おわりに

また、今回のカンファレンス準備を通じて、多くの大学関係者の方々と交流する機会を得ました。哲学科のベトナムの尼僧の皆さんやインド人の学生、さらにヨーガ学科の研究生の方々とも接することができ、これが何よりも嬉しい経験となりました。少しずつ広がってきたこの交流を大切にしながら、今後も自分の目標に向かって引き続き進んでいきたいと思います。

Yoga Deptの皆さんと共に
ベトナム、インド、日本のコラボレーション
Yoga DeptのScholarのPrashantiさん
Phylosophy DeptにてMA履修中のベトナム尼僧の寮友達
バンガロールの大学から来賓されたDr. Raghavendra sir

さて、来週からはクンブメーラ参加のためにウッタラプラデーシュ州のプラヤグラージに行きます。大学の学部長、寮長、そして留学生担当部署の許可が必要で現在許可証取得に向けて奮闘中です(汗)。どうにか無事に出発を迎えられるよう準備を進めていきたいと思います。

また先日ようやくATMカードを取得、オンラインペイメントの設定が完了しました。これで携帯電話のプランも変更できオンラインクラスも再開ができそうです。クンブメーラから戻ってきたらZOOM越しに日本の皆さんともお会いできる日を設定できればと思います。どうぞ日本は寒い時期ですがご自愛くださいませ。

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