はじめに
今年12月21日、記念すべき第1回「世界メディテーションデー(World Meditation Day/WMD)」が制定されました。私が在籍しているアーンドラ大学でも祝賀イベントが催され、インド国内ではメディアやSNSを通じて大きな盛り上がりを感じました。今回は「世界メディテーションデー」について、国連の記事を参照しながら、その意義や背景を簡単にまとめてみたいと思います。
「世界メディテーションデー」とは
2024年12月21日、世界初の「世界メディテーションデー(World Meditation Day)」がインドをはじめとする国々で盛大に祝われました。この日は、10年前に制定された「国際ヨーガの日(International Yoga Day)」の精神を受け継ぎ、さらに冬至という特別な日にちなんで選ばれました。
6月21日(夏至)の「国際ヨーガの日」に対し、12月21日(冬至)はインドの伝統においてウッタラーヤナの始まりとされる特別な日です。ウッタラーヤナは、太陽が北向きに移動し始める周期を指し、宇宙の再生や希望の象徴とされています。この日はまた、『マハーバーラタ』などの叙事詩にも重要な日として描かれており、インド文化に深く根ざした意義を持っています。
ウッタラーヤナについてはこちら: Wikipedia – Uttarayana
制定の流れ
国連総会では、2024年12月6日に12月21日を「世界メディテーションデー(World Meditation Day/WMD)」とする提案が全会一致で採択されました。この提案は、リヒテンシュタインが発案し、インド、スリランカ、ネパール、メキシコ、アンドラなどが共同提案国として参加しました。
参考記事: Times of India
メディテーションとは?
メディテーションとは、今この瞬間に意識を向けることを目的とした、長い歴史をもつ実践です。宗教的、ヨーガ的、そして世俗的な伝統に根ざし、何千年もの間、人々に実践されてきました。現代ではその精神的な起源にとどまらず、個人の健康や心理的安定をサポートする普遍的なツールとして受け入れられています。
メディテーションは、心を訓練し、心身の健康を向上させるものです。一般的に以下のようなテクニックに分類することができます:
• マインドフルネス(Mindfulness):今この瞬間に意識を集中させる技法
• フォーカスド・アテンション(Focused Attention):特定の対象に集中する技法
• コンセントレイテッド・ソート(Concentrated Thought):一つの思考に意識を集中的に向ける技法
参考記事: United Nations
メディテーションの効果
科学的な研究により、メディテーションは以下のような幅広い効果があるとされています:
- ストレス軽減: 日常の緊張を和らげ、心を落ち着かせる。
- 集中力向上: 意識を整え、生産性を高める。
- 不安や抑うつの緩和: メンタルヘルスの改善に寄与。
- 睡眠の質の向上: 心身のリラクゼーションを促進。
- 身体的健康への貢献: 血圧を下げたり、痛みを管理する。
さらに、メディテーションは共感や協力の精神を育み、個人の幸福を超えて社会全体の調和に寄与します。
参考記事: United Nations
国連のメディテーションルーム
国連では、メディテーションが平和や調和を育む重要な手段として認識されています。ニューヨークの国連本部には1952年、ダグ・ハマーショルド事務総長の指導により「メディテーションルーム」が設置されています。ダグ・ハマーショルド氏はこの部屋について次のように述べています:
「この家(国連)は、平和のために働き、議論するために捧げられていますが、一室は外的な静寂と内的な静けさに捧げられるべきです。」
参考記事: United Nations
国連本部でのシュリーシュリー・ラヴィシャンカル氏の登壇
12月20日、インド常駐代表部はニューヨークの国連本部で「世界メディテーションデー」に関連するイベントを開催しました。このイベントでは、「アート・オブ・リビング財団」の創設者であり、著名な精神的指導者であるシュリーシュリー・ラヴィシャンカル氏が登壇しました。ちなみにシュリーシュリー・ラヴィシャンカル氏はインドヨーガ協会(Indian Yoga Association/IYA)の総裁でもあります。
インドヨーガ協会についての記事はこちら:https://kisoyoga.com/indian-yoga-association/
登壇は、「全ての世界の全ての存在が幸福でありますように」という意味を持つシュローカ、Lokāḥ Samastāḥ Sukhino Bhavantu(ローカー・サマスターハ・スキノー・ババントゥ)から始まりました。ラヴィシャンカル氏は、「メディテーションは贅沢品(luxury)ではなく、必需品(necessity)であり、全ての家庭に届くべきだ」と強調されていました。
スピーチの詳細については、以下のリンクから視聴できます:
参考動画(YouTube): シュリーシュリー・ラヴィシャンカル氏の登壇(23分37秒〜56分40秒)
• Indian Expressの記事: Sri Sri Ravi Shankar at the UN
アーンドラ大学での祝賀イベント
第一回「世界メディテーションデー」に際し、アーンドラ大学ヨーガ学科でも12月21日に公開イベントが開催されました。約3時間にわたり、学部長や学科長が登壇し、講演やガイドメディテーションが実施されました。
その翌週には、メディテーションをテーマとしたワークショップが行われました。登壇者は、元ヨーガ学科の学科長であるクリシュナ教授(Prof. Krishna)で、現在は心理学者としてアメリカに在住し、年に1度インドに帰省されているとのことです。今回のワークショップでは、「メディテーションの科学的アプローチ(Scientific Approach to Meditation)」をテーマに講演が行われました。
精神性とサイエンスの融合
インドでは、たとえテーマが「サイエンス(科学)」であったとしても、その背景には必ず精神性が伴う点が非常に興味深いです。今回のワークショップでも、メディテーションの目的に関する話題では、Lokāḥ Samastāḥ Sukhino Bhavantu(ローカー・サマスターハ・スキノー・ババントゥ)というシュローカが引用されました。このシュローカは、国連のスピーチでも引用されていましたが「全ての世界の全ての存在が幸福でありますように」という意味を持ち、宗教や国籍に関わらず、誰もが幸福を望む普遍的な願いを象徴しています。
また、メディテーションの究極的な目的として、サナータナ・ダルマ(Sanātana Dharma)への到達が挙げられました。サナータナ・ダルマとは、「永遠に変わることのない普遍的な法則」や「宇宙と生命の調和を保つための道」を意味し、インドの人々にとってメディテーションが持つ深い意義を改めて感じさせられるものでした。
余談ですが、先日近所のスーパーでインドの叔父様に話しかけられた時も、突如サナータナ・ダルマの話題が出てきました。インドではそれくらい身近なことなのだなとしみじみです。
さらに、パタンジャリの『ヨーガ・スートラ』からの引用も行われ、Yogaś citta-vṛtti-nirodhaḥ(ヨーガシュ チッタヴリッティ ニローダハ)の詠唱も行われました。この言葉は「ヨーガとは、心の動きを制御することである」という意味で、ヨーガ哲学の中核をなす重要な概念です。
こうしたワークショップでは、インド哲学や精神的な要素とサイエンス的なアプローチが見事に融合しています。サイエンスの視点を取り入れつつ、伝統文化の深みを失わないバランスが特徴的です。参加していた学生たちも、この融合に納得し、ワークショップを心から楽しんでいる様子でした。
おわりに
今回は、今年12月21日に初めて制定された「世界メディテーションデー(World Meditation Day/WMD)」について、その概要をご紹介しました。急激に変化する現代社会の中で、メディテーションは今後さらに必要不可欠な存在となっていくことと思います。
メディテーションはストレスの軽減や睡眠の質の向上といった効果が科学的にも認められていますが、インドで重視される普遍的な幸福、人生の意義、そして哲学的基盤にある「心の鎮静化」という側面に目を向けることで、その価値をより深く体感できるのではないでしょうか。
年末のこの時期にメディテーションを取り入れることは、新しい年を穏やかに迎えるための良い準備となるかと思います。残りわずかの2024年が、そして迎える2025年が、皆さまにとって実り多いものとなりますようお祈り申し上げます。