第18回. WHO-CC ヨーガ・ガイドライン 1.8 ヨーガの健康効果

WHO-CC ヨーガ・ガイドライン

はじめに

みなさん、こんにちは。さて今回はWHOヨーガ・ガイドライン解説シリーズ第18弾となります。前回1.7 文化的影響について見て行きました。今回は次の1.8 ヨーガの健康効果について見ていきましょう。

第1章 概要

  • 1.1 ヨーガ入門
  • 1.2 ヨーガの定義
  • 1.3 ヨーガの歴史と発展
  • 1.4 ヨーガの特徴
  • 1.5 伝統的なヨーガの流派/系統
  • 1.6 ヨーガに関する伝統的なテキスト
  • 1.7 文化的影響
  • 1.8 ヨーガの健康効果
  • 1.9 ヨーガに関する誤解と事実

全体の目次は第1回に載っていますので、こちらからご参照ください。

本文に入る前に、今回も簡単にポイントを見て行きたいと思います。まずヨーガは生命(いのち)のサイエンス(Science of Life)であるということ、心と体の健康を向上します。あくまでもその方法はシンプルで、正しい方法で実践することで時間を節約し、費用も最小限で抑えることができます。ヨーガは心身の調和を図り、その結果、常に幸福な良い状態を維持することができるようになります。またヨーガはその特徴として単に身体面だけなく、生理的、感情的、認知的、社会的、精神的な面を適切に発達させて、人格の成長/人間性の成熟を目指します。

ヨーガの健康効果

それでは本文を見て行きましょう。

・ヨーガは生命(いのち)のサイエンスであり、私たちにシンプルで簡単な治療法やテクニック、最小限の費用と時間で身体的および心理的なフィットネスを得る方法を提供してくれる。

・伝統的なヨーガ教育は、薬物を使わないホリスティックな健康システムです。 フィジカル・ヨーガ(バウティカ・ヨーガ)は、健康とフィットネスを維持するために予防、促進、リハビリの可能性を持っています。それは適切な指導とガイダンスの下で実践されるべきである。

WHO-CC CONSUMER INFORMATION ON PROPER USE OF YOGA

「ヨーガは生命(いのち)のサイエンス」とはキャッチーな表現ですね。英語では “Science of Life” と訳されています。Life には生命、命、人生、生き方などさまざまな意味があります。ヨーガは、自分の生命(いのち)を最大限に発揮し、質の高い豊かな人生を目指すためのサイエンスです。各ライフステージや状況に応じて柔軟に適応できる心身を育みます。

ヨーガは薬を使わないインドの伝統医療とみなされていますが、疾患予防、健康促進、管理、リハビリのためにヨーガを活用するためには、安全かつ適切に実践することが重要です。

そのためにあるのがこのマニュアル(規格化)であり、Ayush省傘下にあるYCB試験(ヨーガ教育能力検定試験)による資格化でもあります。適切な資格をもった指導者の育成、そのような資格保持者による規格に沿ったヨーガ指導が期待されます。もちろん個性を出さないという訳ではなく、共通基盤の上でそれぞれの個性を発揮していくことができます。

・ヨーガは、人を外側から内側へと導き、生理的および心理的レベルでの自己認識を高めます。 そうでなければ、異なる次元に雑然と拡散してしまうかもしれない意識に集中することで、人の心は内面化される。

・ヨーガは チャンネルの入力をオン・オフすることで、心理、生理、そして神経の状態をモニターする能力を発達させる。

・ヨーガは内面に働きかけ、身体と心の調和を達成する助けとなり、その結果、常時幸福である状態をもたらす。

WHO-CC CONSUMER INFORMATION ON PROPER USE OF YOGA

この部分は少し分かり難い表現かなとも思います。通常私たちは五感を通じてその側の情報を絶えず入手しています。例えば耳で聞き、肌で感じ、目で見て、舌で味を感じ、鼻で匂いを嗅ぎます。しかしそんな感覚器官に翻弄されて、例えば美味しいものを求め続け、食べ過ぎより2型糖尿病になったり、聴覚や視覚的な刺激も求めすぎることで、気付かぬうちにSNS依存に陥っていることもあります。

実はこのような五感の特徴はすでにインドの伝統文献『カタ・ウパニシャッド』に馬車に例えられて記述されています。五つの感覚器官の対象それぞれに対応する感覚器官である馬が暴走すると、私たちの知性は心を手綱をうまくコントロールできなくなってしまいます。例えば頭では「甘いものを食べ過ぎてはいけない」と分かっていても、五感の働きに翻弄されると、甘いものがある→甘いものを見る→食べたいという欲求が起こる→手を動かして甘いものを口に入れる→繰り返しの習慣→糖尿病 というルートが出来上がってしまいます。

引用:https://sequencewiz.org/2018/01/31/body-as-a-chariot-traditional-view/

ここで必要なのは一旦そんな外側に向いている五感をシャットダウンして内側に向けていくことです。そして内側の心の動きや、その時に起こっている生理的反応を感覚として客観的に感じ取っていきます。自分の中の強い欲求や、その時の興奮するような感覚が感じられるかもしれません。このように意識を外側から引き込んで、内側へ向けることをヨーガ用語でプラティヤーハーラと言います。これはメディテーション実習の前段階の実習となります。

このような実習を普段から継続することで、五感に翻弄されることが減り、心身の調和の促進、常時続くような幸福感へとつながっていくことでしょう。ただこれはもちろん長い道のりです!まずはどんな反応でも「自分の心に気づいている」ということが大切です。「あー、欲求が出ているな」「嫌っているな」などの心の反応や癖に気づくことから始まっていくのです。これらはアウェアネス、マインドフルネスなどと言われますね。

ヨーガでは単に「捻りのポーズが糖尿病に良い」などといった部分的なアプローチだけでなく、心の構造と機能に着目し、認知行動的な部分にまで目を向けていきます。このように心の反応、その癖に気づくことで、徐々に1つ1つの行動が変容し、習慣が変容し、ライフスタイルが変容していきます。そこには病気を未然に防ぐような健康的なライフスタイルが構築されていくことでしょう。

・ヨーガは心を訓練する方法であり、人が自分自身で発見することができるような精妙な知覚の力を養う。

・統合されたホリスティックなアプローチによって、ヨーガは身体(カーヤ)、心(アンタ・カラナ)、自己(プルシャ/アートマ)の調和を達成し、その結果、修行者(サーダカ)は途切れることのない幸福な状態にとどまる。

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こちらも繰り返しにはなりますが、ヨーガは心の構造や機能を理解し、コントロールするための技法です。人生にはさまざまな種類のチャレンジが訪れ、私たちはその度毎にストレスと対峙します。ストレスには心地よい刺激となるユーストレスもあれば、過剰なストレスやネガティブなストレスであるディストレスがあります。ディストレスはもちろん、またユーストレスも過剰であればそれは心身への症状として自律神経の乱れを引き起こし、不眠、不安、落ち着きのなさとして現れることもあります。ディストレスによる影響を最小限にとどめられるよう、ポジティブなユーストレスも過剰にならない気をつけながら、常に平穏で幸せでいられる方向へ歩いて行きたいものですね。

またヨーガには体と心とはまた異なった、自己といったコンセプトが含まれます。これはプルシャ、アートマ、自我意識、魂など様々な言葉で呼ばれます。さて「自分らしさ」という言葉がありますが、自分らしさとはなんでしょうか?ヨーガでは、体や心は本当の自分ではないと考えます。プネー大学の授業でも「I am not body, I am not body, I am not mind, I am not mind」と皆で歌う授業があったのを思い出します。こんな歌を口ずさむと、それだけでもふと心が楽になるものです。

・ヨーガは、最終的な解脱へと導く身体的・心理的な自己成長のシステムである。ヨーガは身体的、生理的、感情的、認知的、社会的、精神的な面を適切に発達させるのに役立つ。

  • 身体的なレベルでは、ヨーガはフィットネスと生理的なホメオスタシスを向上させるのに役立つ。
  • 感情的なレベルでは、ヨーガは感情面でのバランスをもたらします。
  • 認知のレベルでは、バランスの取れた視点を養います。
  • 社会的なレベルでは、社会全体との積極的なつながりを築くのに役立ちます。 それは対人関係の調和に役立ちます。
  • 精神的なレベルでは、自己とのコンタクトを確立し、その人(サーダカ)を自由と解放へと導く自己実現の道へと導く。
WHO-CC CONSUMER INFORMATION ON PROPER USE OF YOGA

またヨーガはその特徴として単に身体面だけなく、生理的、感情的、認知的、社会的、精神的な面を適切に発達させて、人格の成長/人間性の成熟を目指します。これらすべての側面の中核にあるのは「心」です。常に中立的で客観的な視点や心の状態を目指すことにより、多くの問題が解消されるとヨーガでは学びます。

このようなホリスティックなヨーガはその範疇の広さから、すべての教科で一番学ぶことが多い教科でもあります。ただ長い時間、継続的に、真摯に実習することで徐々にその基盤が強固なものになっていくとサンスクリット語で書かれています(P.Y.S1-14)。気長にヨーガの旅路を歩いていきましょう。

理解度チェック(YCB試験対応)

  • 刺激を認識できる部位はどれか。We can perceive the stimulus through______
  • A. 目(Eyes)
  • B. 耳(Ears)
  • C. 舌(Tough)
  • D. 上記すべてを含む(All of the above)
  • 感覚器官の制御はどの実習によって起こるか。“Restraining of senses” is the result of _____
  • A. アーサナ(Asana)
  • B. プラティヤーハーラ(Pratyahara)
  • C. プラーナーヤーマ(Pranayama )
  • D. ダーラナー  (Dharna)
  • ストレスによる身体症状に含まれないのはどれか。Physical symptoms of stress does not include-
  • A. 落ち着きのなさ(Restlessness)
  • B. 不眠症(Insomnia)
  • C. 不安症(Anxiety)
  • D. 上記どれでもない(None of the above)
  • ストレスの種類ではないのはどれか。Is not a type of stress-
  • A. ユーストレス(Eustress )
  • B. ディストレス(Distress )
  • C. AとBの両方(A & B both)
  • D. 上記どれでもない  (None of the above)

おわりに

ここではヨーガの1.8 ヨーガの健康効果について取り扱ってきました。単なるエクササイズによる身体的フィットネスが目的ではないヨーガの効果について垣間見ることができたのであれば嬉しく思います。それでは次回はWHO-CCガイドブック1章の最後であり、またヨーガの基礎のトピックとして常に取り上げられる1.9 ヨーガに関する誤解と事実について見ていきたいと思います。

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