第17回. WHO-CC ヨーガ・ガイドライン 1.7 文化的影響

WHO-CC ヨーガ・ガイドライン

はじめに

みなさん、こんにちは。さて今回はWHOヨーガ・ガイドライン解説シリーズ第17弾となります。遂に前回1.6ヨーガに関する伝統的なテキストが一旦終わり、ここでは1.7 文化的影響について見て行きます。ここはボリュームは少ないですが伝統/補完代替医療を扱う場合に重要な部分なのでしっかりと見て行きましょう。

第1章 概要

  • 1.1 ヨーガ入門
  • 1.2 ヨーガの定義
  • 1.3 ヨーガの歴史と発展
  • 1.4 ヨーガの特徴
  • 1.5 伝統的なヨーガの流派/系統
  • 1.6 ヨーガに関する伝統的なテキスト
  • 1.7 文化的影響
  • 1.8 ヨーガの健康効果
  • 1.9 ヨーガに関する誤解と事実

全体の目次は第1回に載っていますので、こちらからご参照ください。

文化的影響

さて先にこの部分のいくつかのポイントを見ておきたいと思います。まず基本的にヨーガは普遍的で、性別、文化、職業、宗教などに関係がないとされます。しかしヨーガは、人間そのものが対象となるため、実習者/消費者の生きる地域性や宗教文化性も考慮する必要があります。またヨーガは人格/人間性の成熟を目的とします。そのため消費者にとっては、その人の周りの環境における適切な人間性の成熟が期待されます

また指導者と消費者間の相互理解をより円滑に、ヨーガの学びを促進するためには言葉の選び方、相手の信念体系/宗教文化的背景などを含めた相手の理解、尊重が必要となります。指導者、および実習者がお互いにコミュニケーションを大切にして実りある学びへ、またヨーガの共通の目的に向かって共に歩んでいきたいですね。

それでは本文とともに内容を見て行きましょう。

・伝統的なヨーガ教育と自己管理の体系は、特定の宗教的信念や地域的に限定されたものではないと強調し主張すべきである。それは性別、文化、職業、宗教などに関係なく、世界中で実践することができる。

・しかし、実践者/消費者の社会的、文化的、宗教的、スピリチュアルな背景を正しく理解することで、教育の初期段階において、セラピストから消費者への知識と理解の伝達を、対立なくスムーズに行うことができる。

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ヨーガには3つの側面/3本柱があります。それらは以下の3つです:

  1. ヨーガの理論
  2. ヨーガの技術
  3. ヨーガの思想

1)ヨーガの理論はサーンキャ哲学やヨーガ哲学といった哲学(ダルシャナ)的視点や考察が含まれます。2)はハタ・ヨーガに基盤をもつ心身に関連した身体技法、そして3)は宗教文化的な思想の部分となります。人間はどのような性別、文化、職業、宗教的背景を持っていても基本的な心の構造と機能、体の構造と機能は同じです。そのため、心を扱う哲学であるヨーガの理論や技術は普遍的であると言えます。しかし宗教文化を含む3)は国や地域により異なるため互いの理解や尊重が必要となります。

私もインドではチベット仏教圏のラダック地方、ベトナム、タイなどでヨーガ指導をしてきたので、その土地の環境、文化に融合した形は常に意識しています。仏教間でも、チベット仏教、大乗仏教、上座部仏教では微妙に性質が異なる部分もあります。それらを知ることは勉強にもなりますし、また敬意を払って指導に取り組むことで、互いのコミュニケーション、およびヨーガ実習が円滑になります。

チベット仏教圏のラダック地方
大乗仏教圏のラダック
上座部仏教圏のタイ

・ヨーガ教育や自己管理(サーダナ)を通して、人は自分の人格形成における遺伝的、家庭的、社会経済的、職業的、政治的、地理的、歴史的、教育的、社会的、宗教的背景の影響を認識するようになる。

・したがって、伝統的なヨーガの知識と理解を、それぞれの国の文化や経験に根ざした医学的知識の枠組みの中で紹介することが望ましい。 医学的な概念や理解は、国によって大きく異なることがあるからです。(11)

(11 )例えば、呼吸の際に体内に出入りする空気の量は、一般的な医学では「呼吸」または「換気量」と呼ばれる。 この空気を適当な容器に採取し、その容器を分析機関に送って分析することができる。 この空気は、患者が意識不明や昏睡状態であっても採取することができる。

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ヨーガにおけるそのホリスティックなアプローチには、社会的、文化宗教的背景はもちろんのこと、その土地の地理や気候、歴史的・政治的背景、その方の教育歴や職業、経済状況、そして家庭環境や遺伝要因など全てを知ることが必要です。これらについては、自分自身がヨーガを通じて認識することが大切であり、また相手を理解するにも必要な情報となります。これらはヨーガだけでなく医療や教育においても重要ですね。

例えばチベット仏教圏のラダックではチベット伝統医学であるソーワ・リグパというものがあります。インドで一般的に普及するアーユルヴェーダはバラモン教の経典であるヴェーダに基づいているわけですが、ソーワ・リグパはチベット仏教経典に基づいています。多様性をその特徴とするインドでは、これらの違いを尊重しながら調和を持って共存しています。ラダックでのヨーガ指導においては、ヒンドゥー教のマントラを使用しないことや、ヴェーダーンタ的思想を混ぜないことが必要でした。一方でヨーガ・スートラにある心の構造や機能の話、ハタ・ヨーガの身体技法についての話や実践は非常に有益なものとなりました。

・どの宗教/社会にも、ヨーガの実践に似た伝統的な慣習があります。 しかし、それらは目的も目標も異なります。 そのため、ヨーガ・セラピストや消費者の間で、セラピー目的で使用されるヨーガの実践について正しく理解を深める必要がある。

・消費者とヨーガ指導者やセラピストは、適切なコミュニケーションをとる必要があります。 消費者はヨーガ実践の学習段階の適切な時期に、自分の期待や内面的な知覚の性質を、指導者/セラピスト/ガイドに伝えるべきである。 同じように 、指導者もまた、消費者(生徒・患者・サーダカ)の背景を理解し、適切な指示と、適切な方向へと導くために努める必要があります。

・そうでなければ、ヨーガの学習、実践、教育、セラピー、サーダナにおいて、望ましい目的と結果は、消費者(サーダカ)によって経験されず、教師も見逃すこととなるでしょう。

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ヨーガをセラピーとして健康やウェルネス、疾患の予防、管理、リハビリに使用する場合もそうですが、さらにヨーガ本来の目的に向かって、人格のより広い範囲を含めての実践を続ける場合は、徐々に文化宗教的な部分も包括することになります。これはヒンドゥー教、仏教などそれぞれの目的/目標にも関連します。ただそこにあるその言葉や概念は異なるかもしれませんが、総じて人生の苦痛苦難を乗り越え、常に幸福な状態であること目指すことは変わらないのではないでしょうか。普遍的な目的に向かいつつ、ただその言葉、概念、方法の違いは互いの相互理解が必要です。またヨーガの旅路の中で、誤解が生じあわないように、常にコミュニケーションが必要となります。これは指導者として、もしくは消費者としても、双方向からの意識が必要となります。

コミュニケーションに関する出来事を一つ紹介したいと思います。ベトナムでヨーガ指導をしていた時の話です。ベトナムでは英語が通じない場合も多く、Google翻訳を使うものの細かい意思疎通は難しさを感じていました。ある日その地域の方から「どうしても田植えに来てほしい!」と言われ、田植えに参加することになりました。そしてヨーガの参加者さんから「私たちに何が必要か分かってくれた?」と声をかけられました。中腰の姿勢で田植えを体験することで、また彼女たちはそれを何時間も毎日行う訳ですが、互いの言葉が通じないベトナムの農村地域ではそのように無理矢理(!?笑)にでもこちらを田植えに連れて行って、自分たちのニーズを伝えようとしてくれました。一緒にヨーガを実習する上でのこのようなコミュニケーションにとても感謝しています。

・通常、経験豊富で十分な知識を持ったヨーガの指導者やセラピストは、普遍的で受け入れ易く、宗教的でない世俗的な言葉で指示を出します。 これは、ヨーガ・セラピーが受け入れられ、効果的になるために重要なことです。セラピストやガイドを目指すヨーガ指導者は、このことを念頭に置く必要があります。

・ヨーガ指導者、セラピスト、ガイドは、指導やガイダンスを行う場合に、患者の信念体系を尊重することが大切です。

・消費者/利害関係者(サーダカ)は、カースト、信条、性別、年齢、国籍、宗教の枠を超えたもヨーガの普遍的な性質を理解することができます。

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ヨーガのテキストや動画などにおいても、宗教的な言葉や難解な言葉を利用することで、本来の核となる哲学的な部分やサイエンス的な部分が背景に押しやられてしまうことがあります。まだ身近なはずのヨーガが、遠い存在に感じてしまう要因ともなるでしょう。指導者は相手の背景を理解しながら言葉を選び、普遍的なヨーガの基礎基盤を適切に解説することで、カースト、信条、性別、年齢、国籍、宗教の枠を超えたより多くの人へヨーガが届くことになるのではと思います。これぞ Yoga For All ですね。

おわりに

この項ではヨーガにおける文化的影響について見て行きました。WHOの伝統補完代替医療についてのガイドラインに載っている例えですが、「日本の配置薬箱のシステムがモンゴルの医療が届きにくい地域で採用されている」という話が紹介されていました。しかしモンゴルの配置薬箱に入っているお薬は日本の薬ではなく、地元モンゴルのお薬です。コンセプトは同じでも、その環境や土地に合わせた応用/最適化は必須となるでしょう。同じことがヨーガにおいても言えると思います。提供者側も、消費者側もぜひこの点を知っておくことは大切ですね。ヨーガの安全安心な活用へ本日も皆で一歩前進。最後まで読んでいただきありがとうございました。さて次回はヨーガの健康的効果について見ていきましょう。

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