はじめに
前回の記事にて、ラオスの古都ルアンパバーンの主要観光地:ルアンパバーン国立博物館、ワット・シェントーン、ワット・ヴィスンナラータ、プーシーの丘をご紹介してきました。
今回は民族の多様性も国の特徴の一つであるラオスの民族についてや、伝統芸術について知ることができる伝統芸術民族センター(TAEC/Traditional Arts and Ethnology Center)について紹介していければと思います。
TAEC/Traditional Arts and Ethnology Centerの公式HPはこちら
伝統芸術民族センター(TAEC/Traditional Arts and Ethnology Center)
伝統芸術民族センター(TAEC)は、ルアンパバーンの中心地にあります。私はたまたまGoogleマップで見つけましたが、少し小道を入って登っていくと欧米からの観光客の皆さんで賑わっていました。
伝統芸術民族センター(TAEC/Traditional Arts and Ethnology Center) Google map
TAECは2006年に設立され、ラオスの伝統的な技法に基づく民族文化遺産や生活を保護、継承、普及することを目的としています。博物館の役割を果たすと同時に、ラオス全土の職人コミュニティと直接つながり、フェアトレードの販売促進を行っています。
博物館ではラオスの各民族集団と、その伝統芸術に関する情報が提供されていました。展示の解説は日本語も対応しており、日本人にはファイルを渡してくれます。この記事ではその資料を参照しながら写真とともに様子を紹介できればと思います。
ラオスの民族
ラオスには多様な文化、伝統、生活習慣、芸術が見られます。なぜならラオスでは4つの基本となる言語集団があり、さらにその言語集団が100以上の民族集団に分岐していくとのこと。この4つの基本となる言語集団は、オーストロジア語族、モン・ヤオ語族、タイ・カダイ語族、シナ・チベット語族で、ここからさらにサブグループに分かれていきます。またこれはラオスだけでなく周辺諸国にも分布します。そしてこれらの多様な民族の中でアカ族、モン族、タイ・ダム、カムー族について詳しく展示がありました。
ちなみに民族の分類は言語以外にも様々で、国家による民族分類は居住地の地理的な分布に基づいて行われており、ラーオ・ルム、ラーオ・トゥン、ラーオ・スーンの3つに区分されているそうです。
アカ族
アカは大きく変わった。子供でさえ、ほかの村の様子も現代的な生活の様子も十分に知っている。昔だったら、高層建築を初めて見たアカは、精霊が建てたのかと尋ねたことだろう。今でも神を敬っていることには変わりはない。しかし同時に、現代人が高層建築を立てられることも、他にいろいろなことができることも、十分にわかっているのだ。
アカの村には、門「ローカン」とブランコ「ラーソ」があるので、他の民族の村と簡単に区別ができます。この門には外敵や害獣、病気の侵入を防ぐ効果があり、また神話の世界においては人間界と精霊界の境界であると考えられている。そのため、来訪者が門に触れることは一切許されません。
TAEC日本語パンフレットより
タイやラオスを歩いていると、精霊のための祠があちこちに建てられています。アカ族をはじめとした各民族の生活や神話に生きる精霊信仰についてさらに興味が湧くようになりました。また各民族は異なるデザインの衣装を纏うことで、それぞれのグループを認識しあっているとのこと。アカ族の衣装は比較的カラフルで見分けやすいようにも思います。
モン族
伝統的な治療師は人が選ぶものではない。精霊に選んでもらうものだ。
ラオスで4番目に大きな民族集団であるモンは、生業の変化、紛争、大規模な移住などの歴史的経緯を経ながらも、適応性や文化的柔軟性を維持してきました。モンは山の頂上に居住することを好み、急な斜面で焼畑農業を営む人々と考えられています。しかし実際には、1810年から1820年の間に他の民族により遅れて中国からラオスに移住してきたため、耕作に適した低地を利用することができず、高地に住むことを余儀なくされた結果、焼畑農業のシステムを成立させたのです。山の頂上はまた、当時の主要な商品作物であるケシを栽培するのに最適な場所でもありました。
伝統的な新年祭の衣装は、モンのサブグループによって大きく異なっています。しかし現在、若い世代には派手なスカートや刺繍、バッグ、モン・ニュア・サブグループのベルトが流行しています。
TAEC日本語パンフレットより
モン族へあたえられた高地環境の中で、生き延びるための方法として新たに焼畑農業を成立させていったという適応性に尊敬の念を感じます。こちらのモン族は近年デザインが近年若者向けに派手になっているそうです。展示されていたスカートもカラフルで豪華な印象を受けました。また各民族間やサブグループで帽子のデザインも異なり、それぞれのアイデンティティの表現となっているとのこと。
タイ・ダム
私たちは今でも自分たちで敷布団を作っています。とても心地よい敷布団です。市場で売っている敷布団ではよく眠れませんよ。
タイ・ダムはタイ諸語を話す人々で、衣装、精霊信仰、社会的結束などの面で伝統を残しています。タイ・ダムの女性は、自ら布を織り、その布で敷布団、枕、掛け布団、カーテン、蚊帳といった全ての寝具を作ってきました。さまざまな織りの技術と天然染色、アップリケや刺繍を施した布を組み合わせることによって、寝具は出来上がります。
TAEC日本語パンフレットより
工芸品の値段に驚いてしまうことがありますが、全て手作業で多大な時間と労力がかかっているのだということを再認識しました。織られた布、染色、繊細な刺繍、どの部分も本当に美しい丁寧な作業です。こんな布団で寝たら、さぞ良い夢が見れることでしょう。
カムー族
もう誰も機織りをしていない。工場で作った新しい衣類を買えるのだから。昔、村では何も買えなかった。だから機織りをするしかなかった。
カムーは、オーストロジア語族モン・クメール諸語の言語を話す人々であり、ラオスの先住民とされています。・・中略・・カムーは、タイ諸語の人々と長い間交易を行ってきました。米や森林産物、かごを取引することも、また布や鉄、そのほかの生活必需品を作るための労働力を提供することもありました。
TAEC日本語パンフレットより
カムー族の機織りの技法は独特で、片側を柱などに設置し、そお反対側は自分の腰に巻きつけることで機織りをするようになっていました。これで「どこにいても機織りができる」ように工夫したとのこと。そのアイデアに驚いてしまいました。
特別展示
特別展示もあり、ラオス伝統衣装と最新のファッション雑誌とのコラボレーションについて紹介がありました。
また民族の言語を最新の翻訳機で翻訳した文章をネット上に掲載したり、オンライン販売のシステムなどが紹介してありました。伝統民族やその芸術分野の新たな発展を感じます。
ラオスでも経済発展や近代化が進行しています。”生業やライフスタイルが変化し続ける中、言語、衣装、信仰、儀礼といった民族集団のアイデンテティーに関わる要素を維持し続けるには努力が必要であり、TAECでは人々から学び、また意見交換を通じてラオスの多民族社会における文化遺産の価値を維持・保全し、その将来につなげていきたい”という意味の言葉で締められていました。
現代的な社会システムに参入しながらも、その伝統的なアイデンティティを保全していく姿勢。全ての伝統分野において共通する課題のように思いました。
フェアトレード販売ブース
展示の最後には、フェアトレードの販売ブースが設置されていました。洋服、ショール、クッションカバー、財布、ポーチ、マスコット人形など様々なものが販売されています。どれもデザインが派手すぎず現代的なファッションにも取り入れ易いように思いました。私は肌触りがとても柔らかく気に入ったコットン100%の水色のショールを購入。他の方も多くの方がお買い物をされていました。
おわりに
ラオスの伝統芸術分野でも、現代的な手法を取り入れた新たな展開が起こっていることを感じました。一つ一つの商品も、その背景を知ることは非常に大切だなと思います。ラオスの伝統芸術保全活動の応援にもなり、かつ素敵な商品が購入できるTAEC/Traditional Arts and Ethnology Centerもぜひルアンパバーン訪問の際におすすめです。
街中にも黄色が目立つおしゃれなショップがありました。時間が限られる方や、お店だけ覗いてみたい方にお勧めです。
基本情報(2024年1月現在)
施設名:伝統芸術民族センター(TAEC/Traditional Arts and Ethnology Center)
場所:伝統芸術民族センター Google map (TAEC Boutique Google map)
開館時間:9:00-18:00
入場料:30,000kip
次回はラオス不発弾ビジターセンター(UXO Lao Visitor Center)について紹介していきたいと思います。