第15回. WHO-CC ヨーガ・ガイドライン 1.6 ヨーガに関する伝統的なテキスト(6)

WHO-CC ヨーガ・ガイドライン

はじめに

みなさん、こんにちは。さて今回はWHOヨーガ・ガイドライン解説シリーズ第15弾となります。前回に引き続き「ヨーガに関する伝統的なテキスト」を扱います。

第1章 概要

  • 1.1 ヨーガ入門
  • 1.2 ヨーガの定義
  • 1.3 ヨーガの歴史と発展
  • 1.4 ヨーガの特徴
  • 1.5 伝統的なヨーガの流派/系統
  • 1.6 ヨーガに関する伝統的なテキスト(6)
  • 1.7 文化的影響
  • 1.8 ヨーガの健康効果
  • 1.9 ヨーガに関する誤解と事実

全体の目次は第1回に載っていますので、こちらからご参照ください。

1.6 ヨーガに関する伝統的なテキストとして、前回までに後半部分I. バガヴァッド・ギーター、J. ウパニシャッド、K. ヨーガ・ウパニシャッド、L. ブラフマ・スートラのうちI. バガヴァッド・ギーターについて触れていきました。ここではJ. ウパニシャッド、K. ヨーガ・ウパニシャッドについて触れていきます。

J. ウパニシャッド

サンスクリット語の「ウパニシャッド」は、ウパ(近くに)、ニ(下に)、シャッド(座る)から派生した言葉である。したがって、ウパニシャッドの文字通りの意味は「師の近くに座って教えを聞く」である。これは、弟子たちが師の近くに座って、幻想と無知を破壊する自己に関する知識(アートマ・ヴィデッィヤ/Atmavidya)と普遍的な精神に関する知識(ブラフマ・ヴィッディヤ/Brahmavidya)を得ることを意味している。

「ウパニシャッド」は普遍的精神(ブラフマン)と個々の魂(アートマン)について述べている。「ウパニシャッド」にはまた、すべての存在の根底にある宇宙の振動である神聖な音節「オーム」または「OM」についての、原初的で、最も決定的な説明も含まれています。

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ウパニシャッドは、まず上記のように「師の近くに座って教えを聞く」という意味を持ちます。またヴェーダの4つの部分の最終部(アンタ)に位置することから、別名ヴェーダーンタ(ヴェーダ+アンタ)とも呼ばれます。ちなみにヴェーダの4つの部分とはサンヒター/本集、ブラフマナ/祭儀書、アーラニヤカ/森林書、ウパニシャッド/奥義書です。ヴェーダの中でも哲学的な知識をその特徴とします。

「ウパニシャッド」は、ヴェーダーンタの3つの主要な学派を生み出しました:

アドヴァイタ学派:アドヴァイタとは「ふたつではない」という意味であり、自己とブラフマンは一つであるという原則に基づいている。アーディ・シャンカラは、アドヴァイタ・ヴェーダーンタの原理を最初に確立した人物ですが、歴史上最初の提唱者はゴーダーパーダでした。

ドヴァイタ学派:ドヴァイタ学派: ドヴァイタとは「ふたつ」という意味。ドヴァイタ学派はマダヴァーチャーリヤによって創始された学派で、自己とブラフマンは2つの異なる実体であるとの立場をとっています。ドヴァイタ学派は、ブラフマンは個人的な神であるとみなし、ヴィシュヌやクリシュナと同一視する立場をとります。

ヴィーシシュタ・ドヴァイタ学派: ラーマヌジャチャーリヤによって創始された。アドヴァイタ学派とドヴァイタ学派それぞれと一部共通点がある。 ラーマヌジャチャーリヤは、魂(アートマン)と究極の実在(ブラフマン)の間の多様性と区別が存在すると信じていましたが、同時に、すべての魂の統一があり、個々の魂はブラフマンとの同一性を実現する可能性があるとも主張した。

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ヴェーダーンタ学派の中にも多くの流派があり、その中でも3つが主要とされています。その3つはアドヴァイタ学派、ドヴァイタ学派、ヴィーシシュタ・ドヴァイタ学派で、その中でもアドヴァイタ学派のアーディ・シャンカラ (700-750AC)はインド最大の哲学者として讃えられています。

ウパニシャッドは多く存在する。『ムクティカー・ウパニシャッド』によれば、108のウパニシャッドがある。108のウパニシャッドのうち、10のウパニシャッドがムッキャ(主要)ウパニシャッドとみなされています。

主要ウパニシャッド(10)

  • イーシャヴァスヤ・ウパニシャッド/Ishavasya Upanishad
  • ケーナ・ウパニシャッド/Kenopanishad
  • カタ・ウパニシャッド/Kathopanishad
  • ムンダーカ・ウパニシャッド/Mundakopanishad
  • アイタレーヤ・ウパニシャッド/Aitareya Upanishad
  • タイティリーヤ・ウパニシャッド/Taittiriva Upanishad
  • チャンドーギャ・ウパニシャッド/Chandogya Upanishad
  • プラシュナ・ウパニシャッド/Prashnopanishad
  • マンドゥーキャ・ウパニシャッド/Mandukyopanishad
  • ブリハダーランニャキャ・ウパニシャッド/Brihadaranyaka Upanishad
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上記の主要ウパニシャッドはヴェーダーンタ哲学において非常に重要ですが、ヨーガにおいてまず重要なのは、「カタ・ウパニシャッド」と「タイティリーヤ・ウパニシャッド」です。「カタ・ウパニシャッド」には、人の心の構造と機能について、またアディヤートミカ・ヨーガのコンセプトが馬車の比喩とともに説かれており、「タイティリーヤ・ウパニシャッド」にはインド的人格論の一つであるパンチャ・コーシャ理論が説かれています。これらは現代的なメンタルヘルスにも関連づけられますのでぜひ押さえておきましょう。

K. ヨーガ・ウパニシャッド

ヨーガ・ウパニシャッドは、ヒンドゥー教におけるマイナー・ウパニシャッド(小ウパニシャッド)集の一部であり、ヨーガの教えと実践に焦点を当てています。『ムクティカー・ウパニシャッド』に掲載されている108のウパニシャッドの中には、合計で20種類のヨーガ・ウパニシャッドが含まれています。これらのヨーガ・ウパニシャッドは、他のいくつかのマイナー・ウパニシャッドとともに、通常、ヴェーダの伝統に関連する13の主要なウパニシャッド(メジャー)とは区別されます。

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これらのヨーガ・ウパニシャッドについて勉強をするのは、インドでも修士(M.A, M.Sc)以上です。しかしウパニシャッドというヴェーダンタ哲学と、ハタ・ヨーガやヨーガ哲学が融合する大変興味深い文献群です。また各ウパニシャッドが、特化するテーマを持っていることもその特徴です。

『ムクティカー・ウパニシャッド』には108のウパニシャッドのリストがある。そのうち、20のウパニシャッドが主要な主題としてヨーガを扱っている。これらの20種類のウパニシャッドは「ヨーガ・ウパニシャッド」と呼ばれています。

S.No. ヨーガ・ウパニシャッド

  • 1. ハンサ・ウパニシャッド/Hamsa Upanishad
  • 2. アムリタ・ビンドゥ・ウパニシャッドAmritabindu Upanishad
  • 3. ナーダ・ビンドゥ・ウパニシャッドまたはアムリタ・ナダ・ビンドゥ・ウパニシャッドNadabindu Upanishad or Amrita Nada Bindu Upanishad
  • 4. クシュリカー・ウパニシャッド/Kshurika Upanishad
  • 5. テージョー・ビンドゥ・ウパニシャッド/Tejobindu Upanishad
  • 6. ナーダ・ビンドゥ・ウパニシャッド/Nadabindu Upanishad
  • 7. ディヤーナ・ビンドゥ・ウパニシャッド/Dhyanabindu Upanishad
  • 8. ブラフマ・ヴィディヤー・ウパニシャッド/Brahmavidya Upanishad
  • 9. ヨーガ・タットヴァ・ウパニシャッド/Yogatattva Upanishad
  • 10. トリシキ・ブラフマナ・ウパニシャッド /Trishikhibrahmana Upanishad
  • 11. ヨーガチューダーマニ・ウパニシャッド/Yogachudamani Upanishad
  • 12. マンダラ・ブラフマナ・ウパニシャッド/Mandala-brahmana Upanishad
  • 13. アドヴァヤ・タラカ・ウパニシャッド/Advayataraka Upanishad
  • 14. シャーンディリヤ・ウパニシャッド/Shandilya Upanishad
  • 15. ヨーガシカー・ウパニシャッド/Yogashikha Upanishad
  • 16. パーシュパタ・ブラフマ・ウパニシャッド/Pashupatabrahma Upanishad
  • 17. ヨーガ・クンダリニー・ウパニシャッド /Yoga-kundalini Upanishad
  • 18. ダルシャナ・ウパニシャッド/Darshana Upanishad
  • 19. マハーヴァーキャ・ウパニシャッド/Mahavakya Upanishad
  • 20. ヴァラーハ・ウパニシャッド/Varaha Upanishad
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プネー大学ヨーガ修士課程の授業ではLonavla Yoga Instituteから出版されている以下の文献を参照していました。

以下には各ウパニシャッドと関連するヴェーダが示されています。

ヨーガ・ウパニシャッド関連ヴェーダ
1. ハンサ・ウパニシャッドシュクラ・ヤジュルヴェーダ
2. アムリタ・ビンドゥ・ウパニシャッドアタルヴァヴェーダ
3. ナーダ・ビンドゥ・ウパニシャッドまたはアムリタ・ナダ・ビンドゥ・ウパニシャッドリグヴェーダまたはアタルヴァヴェーダ
4. クシュリカー・ウパニシャッドアタルヴァヴェーダ
5. テージョー・ビンドゥ・ウパニシャッドアタルヴァヴェーダ
6. ナーダ・ビンドゥ・ウパニシャッドアタルヴァヴェーダまたはリグヴェーダ
7. ディヤーナ・ビンドゥ・ウパニシャッドアタルヴァヴェーダとサマヴェーダ
8. ブラフマ・ヴィディヤー・ウパニシャッドアタルヴァヴェーダとクリシュナ・ヤジュルヴェーダ
9. ヨーガ・タットヴァ・ウパニシャッドアタルヴァヴェーダ
10. トリシキ・ブラフマナ・ウパニシャッド シュクラ ヤジュルヴェーダ
11. ヨーガチューダーマニ・ウパニシャッドサーマヴェーダ
12. マンダラ・ブラフマナ・ウパニシャッドシュクラ・ヤジュルヴェーダ
13. アドヴァヤ・タラカ・ウパニシャッドシュクラ ヤジュルヴェーダ
14. シャーンディリヤ・ウパニシャッドアタルヴァヴェーダ
15. ヨーガシカー・ウパニシャッドクリシュナ・ヤジュルヴェーダ
16. パーシュパタ・ブラフマ・ウパニシャッドアタルヴァヴェーダ
17. ヨーガ・クンダリニー・ウパニシャッド クリシュナ・ヤジュルヴェーダ
18. ダルシャナ・ウパニシャッドサーマヴェーダ
19. マハーヴァーキャ・ウパニシャッドアタルヴァヴェーダ
20. ヴァラーハ・ウパニシャッドクリシュナ・ヤジュルヴェーダ
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理解度チェック(YCB試験対応)

  • 『カタ・ウパニシャッド』で説明されるヨーガはどれか。Which Yoga is explained in Kathopnishada?
  • A. ハタ・ヨーガ(Hatha Yoga )
  • B. マントラ・ヨーガ(Mantra Yoga)
  • C. アディヤートマ・ヨーガ(Adhyatm Yoga )
  • D. 上記全てを含む(All  of the above)
  • 『タイッティリーヤ・ウパニシャッド』で説明されるのは次のうちどれか。_________ is explained in Taiteriya Upanishad
  • A. パンチャ・コーシャ(Panchkosha)
  • B. アーナンダ・ミーマーンサー(Anand Mimansa)
  • C. プルシャールタ チャトゥスタヤ(Purusarth Chatushtay)
  • D. トリ・ピタカ(Tripitak )

おわりに

ウパニシャッドは一般的なYCB試験でも一般的なYoga Wellness Instructorの範囲ではあまり問われることはありませんが、インド的思想や文化を知る為には興味深い部分でもありますね。ただウパニシャッドという文献はその数からも分かるように多数存在し、内容が一見矛盾するように見えることがあります。そこで次回扱う『ブラフマ・スートラ』の必要性が現れました。では次回はヨーガに関する伝統的なテキストの最終となる『ブラフマ・スートラ』について見ていきましょう。

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