WHO伝統医学グローバル・サミットと「Training in Yoga」

インドのヨーガ情報

はじめに:伝統医学をめぐる国際的な潮流

みなさん、こんにちは。年の瀬、いかがお過ごしでしょうか。今年2025年最後のブログ更新となりましたが、ここで今年最大のヨーガの大きな動きをここに記しておきたいと思います。

近年、ヨーガや伝統医学をめぐる国際的な動きが、WHO(世界保健機関)を中心に大きく進んでいます。2025年12月17日から19日にかけて、インド・ニューデリーで第2回 WHO 伝統医学グローバル・サミット が開催されました。

この会議には、世界100か国以上から、政策担当者、研究者、医療関係者、先住民コミュニティの代表などが参加し、「伝統医学を現代の保健医療システムにどのように統合していくか」という問いが、学術・政策・文化の各側面から議論されました。

サミットの総括:伝統医学は「生きた知」へ

WHOが公表したサミットの総括では、伝統医学はもはや「過去の遺産」や「代替医療」として周縁化される存在ではなく、

  • 科学的根拠(evidence)
  • 安全性と有効性
  • 倫理と公平性
  • 文化的尊重と先住民の保護

に支えられた、“生きた知” “実践の知恵”として、グローバル・ヘルスの重要な一翼を担う存在であることが明確に示されました。

重要なのは、 「保存すること」そのものではなく、現代社会の健康課題に応答しながら活用されることによって、伝統的知識の価値が発揮される、という考え方です。

ヨーガの位置づけ:伝統医学の一分野として

この流れの中で、ヨーガもまた、伝統医学(Traditional, Complementary and Integrative Medicine)の一分野として明確に位置づけられています。

ヨーガは、身体運動、呼吸法、瞑想といった技法の集合ではなく、身体・呼吸・心の統合を目指す体系的実践であり、長い歴史の中で培われてきた哲学的・倫理的枠組みに支えられた知識の体系であることが、国際的にも共有されました。

『Training in Yoga』とは何か

このサミットの開催期間中、WHOから

『Training in Yoga』という技術報告書(technical report) が公表されました。

Screenshot
MInistry of Ayush, Goverment of India, Facebookより

この文書の目的

『Training in Yoga』は、ヨーガ指導者・トレーナーの育成において、安全性、質の担保、国際的に参照可能な枠組みを示すことを目的としたガイドラインです。

世界的にヨーガの実践と教育が広がる中で、「最低限、共通して大切にすべき考え方とは何か」を整理しようとする試みだと言えます。

ヨーガを「統合的実践」として位置づける

このマニュアルの大きな特徴の一つは、ヨーガを単なる身体運動としてではなく、統合的実践として捉えている点です。

• 伝統文献(『ヨーガ・スートラ』やハタ・ヨーガ文献)への言及

• アーサナだけでなく、プラーナーヤーマ、瞑想、および倫理的基盤への配慮

• 身体・心・社会性を含む包括的健康観

が明確に示されています。

特定の宗教や解釈を押し付けない姿勢

同時に、『Training in Yoga』は、特定の宗教的教義や特定のヨーガ解釈を世界に押し付けるものではありません。伝統的知見を歴史的・文化的背景として尊重しつつ、現代の健康・教育・医療の文脈において、どのように理解し、応用できるかという姿勢が一貫しています。

指導者に求められる共通基盤

またこのマニュアルでは、指導者に求められる基礎的素養として、

  • 解剖学・生理学の理解
  • 健康と疾病への配慮
  • 倫理と責任
  • コミュニケーション能力
  • 研究リテラシー

などが整理されています。

これは、 誰に対しても安全で、責任あるヨーガ指導を行うための共通基盤を示すものだと言えるでしょう。

多様性を尊重する「ガイド」としての位置づけ

WHOは、この文書が「世界中のヨーガを一律に規定するものではない」ことを明確にしています。

むしろ、各国・各文化の伝統や地域ごとの実践を尊重しながら、共通して大切にすべき最低限の原則を示すガイドラインとして位置づけられています。

日本の文脈から考えるヨーガ

例えば日本には、仏教や禅といった精神文化が、長い時間をかけて根づいてきました。その土壌を踏まえながら、WHOが示す共通原理・原則に照らして、ヨーガをどのように理解するのか、 どのように日常生活や教育の中に調和させていくのかを考えることは、単なる健康法を超えて、人生に寄り添う実践としての意味をもつのではないでしょうか。

おわりに:伝統と変容のあいだで

WHOグローバル・サミットと『Training in Yoga』は、ヨーガを「保存すべき伝統」か「現代的な健康実践」のどちらかに分けるのではなく、伝統を尊重しながら、変容を受け入れていく姿勢を明確に示しています。

大学や教育の場においても、伝統文献への理解と現代的視点を行き来しながら、ヨーガを文化・健康・教育の交点として捉え直すことが、今後ますます重要になっていくように思われます。

おまけ

第2回 世界メディテーションの日の一コマです。国際ヨーガの日が 6月21日(夏至) に、世界メディテーションデーが 12月21日(冬至) に設定されています。インドではメディテーションは特別なことでも、ファッションでもなく日常の一部であると感じます。

来年も、ヨーガとメディテーションの実践知が、安全で安心なかたちで深められていくことを、心より願っています。本年も大変お世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。

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