ラダックでのヨーガ推進活動/LNA編

ラダック編

今回は2023年8月-9月にかけてラダックで行ったヨーガ普及活動、とくにLadakh Nuns Association での取り組みについて紹介出来ればと思います。

ラダックの環境と一般的な健康問題

まずはラダックの環境と一般的な健康問題について少し触れていきたいと思います。標高約3500m、酸素は平地の4分の3から、2分の1程度となる高地環境となります。

疾患は脳梗塞、胃癌が多いとされています。死因の60%が癌で、内胃癌が最多とのこと。

インダス川の削る岩の鹿粉を吸入することによる珪肺症(結晶シリカ(ケイ酸)粉塵を吸入することで生じる職業性肺疾患の一種)が多いとされています。またセメント産業が盛んですが作業場がオープンなことや、乾燥した環境で常に粉塵が舞っている為、呼吸器官への影響を強く感じました。

また胆嚢結石を患っている方が非常に多かったです。私の周囲だけでも5名以上の方が胆嚢結石オペ後や、経過観察中でした。医師やソーワリグパ医に話を聞いたところ、原因としてマギー(インスタントヌードル)の普及や、多量のバター摂取、水分摂取の少なさなどが原因として考えられるとのことでした。

ラダックでも第一次産業から第三次産業への移行が起こっており、ライフスタイルも変容してきています。座位での仕事が増えても、食生活が農作業の時と同じであればエネルギー過多となり肥満や糖尿病となります。ラダックでも健康教育の欠如によりこのようなケースが増えているようです。

Common Yoga Protocol Appreciation Course at Ladakh Nuns Association

今回Ladakh Nuns Association では、2023年8月〜Common Yoga Protocol Appreciation Courseとして基本のCommon Yoga Protocol実習を徹底的に行いました。

LNAでは毎日朝5:00-6:00(全体実習)、夕方17:00-18:00(セラピー)、夕方18:00-19:00(キッズ)、夜21:30-22:30(青年)と1日4回のクラスを実施、参加者は1~3回/日クラスに参加されていました。

CYPの基本実習に加えYoga Certification Boardのシラバスの範疇にあるBSYのテキストに準じたスークシュマ・ヴィヤーヤーマ/関節運動や近代的ストレッチ体操、スーリヤナマスカーラ(バリエーション含む)や各種有酸素運動、伝統的アーサナ、各種呼吸法(ヨーガ的呼吸法の準備)やプラーナーヤーマ/ヨーガ的呼吸法、メディテーション、そして様々なシュッディ・クリヤー/浄化技法 (ダウティ/上部消化管の浄化、ネーティ/鼻腔の浄化( ジャラ/水、スートラ/ゴム管または専用の紙縒)、トラータカ/目の浄化、ナウリ/腹部臓器の浄化法の導入実習、カパーラバーティ/副鼻腔の浄化)、ハスタ・ムドラー/手のムドラーの実習を行いました。

ここではいくつかの側面を紹介できればと思います。

シュッディ・クリヤー/浄化法

ラダックでは上記で触れたように粉塵も多く、また高地の標高や乾燥により鼻出血も起こりやすくなります。今回のラダック滞在で感じたことは、ラダック全体で肥満や脂肪肝、胆嚢結石患者が多いということです。LNA内も例外ではありません、若い20代の尼僧さんも胆嚢結石の治療後、治療中の方が数名見えました。

ネーティー(鼻腔の浄化法)

ここで鼻腔の浄化となるネーティ(鼻腔の浄化法)実習は非常に有効で、実施後にはみなさん効果を実感されていました。参加者ほぼ全員(小学生〜シニア)の方まで、皆さん技法をすぐに習得され自己実習を続けられるレベルとなりました。数名はスートラ・ネーティー(実際はゴム管を使用したラバー・ネーティー)の実習も希望され、個人実習で継続して行きました。

ダウティ(上部消化管の浄化)

過去に胃潰瘍の既往がある方や胃酸過多の症状を持つ方もあり、希望者に向けてボーマン・ダウティ/クンジャル(多量の生理食塩水を使ったダウティ)の実習を行いました。皆さん初めてにも関わらず、果敢に実習に取り組まれ全ての方が初回の実習で嘔吐反射を経験することができていました。ラダックでもスナック菓子やインスタント食品の普及もあり、参加の皆さん自身が必要性を感じている様子でした。

シャンカ・プラクシャーラナ(消化管全体の浄化)

生理食塩水を一定のペースで飲みながら、特定のエクササイズを繰り返し、消化管全体を水で洗浄する浄化法の実習も行いました。この実習は方法によって中級〜上級実習となるためレギュラーにクラスに参加している青年層対象に実施しました。肥満や胆嚢結石予防のためという目的もありました。今回は簡易版として全量2リットルで、エクササイズ5セットで行いました。2日間に分けて半数ずつ行いましたが、全員が排便を通じて消化管の浄化を経験することができました。

トラータカ(目の浄化法)

スマホの使用や読書、読経の練習などで目を酷使することが多く、リクエストもありトラータカの実習を2回行いました。尼僧の方は毎日のプレイヤーなどで集中力や内観に長けていることもあり、容易にトラータカの技法を理解され実習に取り組まれていました。

カパーラバーティ(呼吸器の浄化法)

一般的なヴァータクラマ・カパーラバーティ(換気)に加え、ヴュットクラマ・カパーラバーテ(鼻腔から水を吸い込み、口から出す)、シーットクラマ・カパーラバーティ(口から入れた水を、鼻腔から出す)などの水を使ったカパーラバーティの実習も行いました。標高の高さから鼻出血も起こりやすく、また粉塵の多いラダックでは、非常に有効な実習であると感じました。

スークシュマ・ヴィヤーヤーマ/関節運動や近代的ストレッチ体操

セラピークラスでは、腰痛対策などがリクエストとあったため、腰痛改善の動作を入れた関節運動などを取り入れました。またラダックでも座位時間が長いことや、ラダックでは冬の間は外出がさらに少なくなり動作が少なくなることからも、習慣的な関節運動は非常に重要な位置を締めると感じました。

スーリヤナマスカーラ(バリエーション含む)や各種有酸素運動

肥満や体重減少をまずは第一目標としている方も多く、エクササイズ的側面も取り入れていました。ライフスタイルの変容も合わせて、2ヶ月で5kg以上減量したかたも見えました。体重の減少に伴い、身体の軽さ、そして心の軽さや明瞭さを感じたとのフィードバックがありました。小学生へのヨーガは、動きの多い関節運動やスーリヤナマスカーラが集中力を保つのにも有効であると感じました。

ヨーガアーサナ

青年期、シニア世代には徐々に伝統的アーサナの技法を紹介し、緊張と弛緩を繰り返す(漸進的筋弛緩法のメソッド)方法で伝統的アーサナ実習を行いました。青年層、シニア層は特に筋緊張が非常に高く、頻繁に偏頭痛がある方も多く見えました。継続的な実習により肩首周囲、大腿部の過度な筋緊張が緩和され筋トーヌスが最適化されていきました。それと同時に偏頭痛の頻度も減ったとのフィードバックがありました。

シニア層は特にフィーリング重視のメソッドへの飲み込みが早く、ヨーガアーサナの感覚重視の実習がヴィパッサナー実習へシームレスにつながっていくことを経験されていました。

キッズクラスでは、スークシュマ・ヴィヤーヤーマやストゥーラ・ヴィヤーヤーマ、スーリヤ・ナマスカーラがメインとなりましたが、柔軟性、バランスが高いメンバーが多くやや高度なアーサナ実習も取り入れていきました。またキッズクラスではこちらの見守りの元、スーリヤナマスカーラや簡易アーサナのインストラクションを生徒自らが交代制で行うことにしました。これにより集中力の維持が難しいキッズ世代にとっても、各自の実習への取り組みへのモチベーションや集中力の維持・向上につながりました。また”自分にもできる”という自信になったというフィードバックもありました。

各種呼吸法(ヨーガ的呼吸法の準備)やプラーナーヤーマ/ヨーガ的呼吸法

ラダックは酸素は平地の4分の3から、2分の1程度となるという環境のため呼吸の延長が難しいことを自分自身も感じました。そのためカパーラバーティの実習を徹底し、呼吸法では吸気:呼気=5:5の実習の積み重ねを行い、徐々に5:10まで延長をして行きました。

また鼻腔を開ける為に片鼻カパーラバーティやナーディーショーダナ・プラーナーヤーマが非常に重要な役割を担いました。ラダックの標高では交感神経が優位となるため、血圧も上がりやすい環境にあると思います。呼吸時の振動により毛細血管を拡張し血圧を下げるブラーマリー・プラーナーヤーマはニーズが高く、また小学生は音により集中力を維持しやすいという利点もあり汎用性の高い実習となりました。

メディテーション

LNAの中には以前Vipaasanaの10日間コースに参加したことがある方も見えました。またチベット仏教実践として毎日朝晩のプレイヤーが日課となっています。ヨーガ実習(姿勢の最適化、呼吸の最適化)は瞑想実習もしくは、仏教のプレイヤー実践のための準備として非常に有効であることを感じました。

心の健康/メンタルヘルスへの効果

尼僧院で生活を送る尼僧さんたちも様々な家族背景を持っています。得に若い方は、早くから親元を離れ遠くのレーにきて、尼僧院での生活を送っています。理由は様々で実家が田舎で十分な教育施設がない、貧困から家族が養育費をまかなえない、家族で一人僧/尼僧となる慣習による、両親との他界なども含まれます。尼僧になろうと自分で決めた方も見えれば、家族による判断により尼僧で過ごしている方もみえます。幼少の頃は「尼僧ってかっこいい」と気軽に決断したものの、成長とともに「あの時の判断で、一生を尼僧で過ごすことになるとは・・・」と後で様々な思いがある方もみえるようでした。学校では一般の方とも一緒に過ごすことになりますが、周囲の生徒は様々な洋服を着て、可愛いキャラクターものの筆記用具をもち、催し物がある日は煌びやかなドレスアップをし、ダンスや歌を歌います。そのような環境の中で、内側に複雑な感情が生じているだろうなという表情も垣間見ました。尼僧での普段の会話の中で「外の人になかなか心をオープンに話せないの」という話をしてくれたこともあります。

尼僧院では毎日チベット仏教のマントラの詠唱の練習があり、「プレイヤーを唱えていると、日常生活でどんなことがあっても心が安定する」と言われていたことが印象的でした。

ヨーガの身体的なセラピー的効果ももちろんですが、元々のヨーガ実習の目的である心の安定や、心を開くという点は継続した実習によって徐々に実感されていたように思います。これは特に先輩の尼僧さんたちが、後輩の尼僧さんたちの様子を見て「皆が心を開いて来ている」と感じられたようです。

授与式

滞在中の最後にCommon Yoga Protocol Appreciation Course のCertificateの授与式を行い、無事コースを修了することができました。ヨーガ実習による個人的な心身の変化も経験されたことに加え、「今はヨーガへの注目も高まっているから、このCertificateが就活にも役立つわ。ありがとう。」とのコメントがありました。インドはCertificate 文化があり、就職時も評価の対象となります。その枠組みに今回の活動が組み込まれたことが嬉しく思います。

今後の方向性・可能性

ラダックのように環境的に厳しく、また医療が届きにくい農村部もあるような場所では、特にこの土地の伝統/補完代替医療であるソーワリグパとともに、ヨーガが非常に意味を持つと実感しました。特にラダックではヨーガについて興味関心はあるけども、学ぶ機会がないということを多く聞きました。

ラダックの地では、他のインドの地域に比べてヨーガを系統的に学べる場所が少なく、有資格のヨーガ指導者も数少ないです。今後ラダックの若者が他の地域のヨーガ教育機関へヨーガの勉強に行ったり、ラダック内でのインストラクターコースの運営が必須になってくると思いました。それにより今後ヨーガを通じた健康教育や健康増進、疾患予防が学校教育や医療現場に積極的に組み込まれていくことに繋がればと思います。

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